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気になるひと

#4

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こんなどす黒い片想いに付き合わされる方が可哀想だ。デートなんて、ストレートかどうかも分からない相手に求めてていいものではない。
最下位だった今日の占いを思い出し、思わず項垂れると、後ろから足音が聞こえた。

「准!」
「お、創。おはよう」

肩を叩かれて振り返ると、そこにいたのは先週ぶりの従兄弟、創。グレーのロングコートを羽織っている。彼もちょうど出社してきたようだ。
「おはよ。何ひとりで突っ立ってんだ? 遅刻するぞ? 俺ギリギリで来たから」
「え! ……ホントだ、やばっ……って、あれ?」
腕時計を見て驚いた後、准は周りを見回して首を傾げた。
涼がいない。

「准、どうした?」
「あ……いや、何でもない。行くか」

創には内緒にして、一緒に歩き出す。
いつの間に居なくなったんだろう。全然気が付かなかった。
おおかたさっさと帰って今夜の作戦でも練るつもりだな。そう思うと憂鬱だったけど、気を引き締めて会社に入った。

そして、三日月が浮かぶ夜。
無事に今日の仕事を終え、准は退勤した。何も起きなくて良かったという安心感の方が強い。
自分は定時で上がれたけど、加東さんはどうだろう……。
准はソワソワしながら待ち合わせ場所のエントランスへ向かう。すると、自分の名前を呼ぶ弾んだ声が聞こえた。

「おーい、准君。こっちこっち」

加東は、准よりも先に立って待っていた。
「お疲れ様です、加東さん。早いですね」
「おつかれ。大事な用があるって言って、一番に出てやったからね」
冗談でもそう言われると嬉しい。彼の明るい笑顔を見たら一日の疲労や心労も吹っ飛んでしまいそうだった。
「最近よく行く美味い店があるんだ。そこに行こう」
「はい、お願いします」
会社を出て、准は彼と隣り合わせで歩いた。歩きという事は近くか。昼の買い出しで鉢合わせになることはたまにあるが、完全プライベートで、しかも二人きりで食事に行くのは初めてだった。
う……今さら緊張してきた。
視線が足元ばっかりいくせいか、加東は心配そうに准の顔を覗き込んできた。
「あれ……大丈夫? 何か朝より顔色悪いかも」
「だ、大丈夫です!」
予想外に大きな声で返事してしまい、自分でもびっくりした。加東はもちろん、周りの通行人も。驚かせて申し訳ない。准は心の中で頭を下げた。
「すみません。体調は大丈夫です」
「そう。それならいいけど……ちょっと心配でさ。准君は、たまに無理するから」





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