ファナティック・フレンド

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
15 / 149
押し売り

#7

しおりを挟む



それから一時間近く経ったころ、涼は高らかに准の名前を呼んだ。
「はい、お待たせしました!」
「ほんとに作れんだな……」
驚くことに、食卓には純和風の料理が所狭しに並べられていた。涼はとても手際がよく、普段から頻繁に料理をしているように見えた。

もちろん変なものを入れられたら困るので、ほぼべったり近くで見張っていたわけだけど。
「いただきまーす」
「お口に合いますか?」
「合う。怖……」
不覚……なんてこった。本当に美味い。

家で誰かに手料理を作ってもらったのも久しぶりだ。懐かしく感じてさらにご飯をかきこんでしまう。正直、これなら毎日でも作ってほしいぐらい……。
「って、突っ立ってないでお前も食えよ」
見ると、涼は離れた場所で佇んでいた。
「俺は大丈夫ですよ」
「何で? お前が作ったんだから一緒に食おうよ。皿も客用のあるし」
「でも……」
涼はあくまで遠慮していたが、焦れったく感じた准は無理やり席に座らせ、彼の口に玉子焼きを詰め込んだ。
「ほら、一緒に食うと美味いだろ」
「ふぁい……」
しかし一口で食べさせようとしたのは可哀想だった。彼は食べ物を詰め込んだリスみたいに頬を膨らませてる。

笑ってる顔は子どもみたいで可愛い。……が、それはさておき。名前以外何も知らない人間と自宅で朝飯を食べる謎の光景が生まれてる。
まるで家族みたいだ。強いて例えるなら弟か。
「お前、兄弟いる?」
「俺ですか? いませんよ」
「じゃ、俺と一緒だな。遊ぶのは友達ぐらいか」
「そうですね! 俺友達いませんが」
「そうなんだ……」
何故なのかは訊かないでおこう。人は誰しも触れてほしくない話題があるんだ。

それが、自分にとって同性愛の話だ。

その後は、食事することに集中した空腹だったのもそうだし、涼の料理は美味しくてすぐに完食してしまった。
「ごちそうさまでした。で、話戻るけど……お前はこれからどうすんの?」
准は箸を置いて彼と目を合わせる。食事が終わった後なら、遠慮なくそっちの話ができるから。なんだかんだダラダラしてたらもう九時半だった。

「とりあえず財布を探します。スマホも探さないとだけど。本当ついてないっていうか、やんなっちゃいますね。あはは」
「笑ってる場合か。警察行くぞ」
「警察だけは無理です! 許してください!」
「じゃなくて、遺失の届け出しなきゃだろ! もしかしたら誰かが拾ってくれてるかもしれないし」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...