ファナティック・フレンド

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
11 / 149
押し売り

#3

しおりを挟む


彼の口元は笑っているが、眼は全く笑っていなかった。真剣というよりは、まるで疑ってない、信じ切ったような眼。初めて会った人間に向ける眼には思えない。
だからこそ不思議でならない。自分はこの青年を知らない。現時点で彼はストーカー以外の何者でもなかった。
「ちなみに、お前も今までずっと寝てたんだよな?」
「はい。でも何だか……よく思い出せないけど、昔の夢を見ていました」
「へぇ。奇遇だな。俺もそんな気がする」
そう返すと、彼は視線を下に移した。しかしすぐに顔を上げ、最高のスマイルで信じられない台詞を吐く。

「……そういえば! 何の根拠もないんですけど、俺、准さんに抱き締められてた気がします」

分からない。
……何で根拠もなく、そんなおぞましいことを平然と言えるんだ。
なるべく穏便に会話したかったけど、キャパオーバーで爆発した。

「だ、か、ら! 会ったばっかの奴にそんな事するわけないだろ!? 確かに昨日は俺も酔ってたけど、お前だって全然覚えてないんじゃないか!?」
「覚えてますよぉ~。えーと、俺が大通りで財布とスマホなくした話まではしましたよね」
「初耳だよ、やっぱ何も覚えてないんだろ!」

息切れしながら叫んだ。大して酒に強くない人間の記憶力なんてアテにならない。自分も、恐らく彼も。だから尚さら頭を抱えた。
「昨日お前は、寝たら全部話すって言ってたぞ。何で俺のこと知ってるのか、今度こそ話してくれるよな?」
「いっ? 俺そんなこと言いました? 准さんの記憶違いじゃないですか」
彼はしれっと否定したが、これだけは自分の記憶に絶対的な自信があった。
「寝たら話すって言うから諦めて泊めてやったんだよ。これが記憶違いだったら百万……いや、十万払う」
金額を一桁下げてしまったのは、口に出したら何か急に自信無くなってきたとか、そういうんじゃないんだ。とにかく、早く畳み掛けないと。
謎のやる気がわいてきて、彼との距離を詰めた。
「さぁ言え、お前はどこの誰だ? まずは名前! それから歳。学生か!?」
彼の人間性があらかた分かってきたので、准は口を挟む間も与えず質問した。狙い通り、これは効果があった。

涼成哉すずみせいや、二十歳です。一応、会社員ですけど……」

ようやく狼狽えた様子の彼を見て、愉快な気分になる。溜飲が下がるという表現がしっくりくるが、これは悟られてはいけないと思った。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...