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誓いの言葉
#2
しおりを挟む嬉しいことに、旅行当日は晴天。
和巳さんは目移りした末に選んだ駅弁を(絶対食べれないのに)三つ買い込んで新幹線に乗り込んだ。
俺も新幹線に乗ったのは久しぶりだ。景色を楽しむ間も急速に北上していく。そして和巳さんは駅弁を食べきれず、苦しそうに目的の地に降り立った。
「鈴、ごめん……もう少しゆっくり歩いて。俺のストマックが破裂しそうなんだ……」
「和巳さん……」
言っても安定のペースで、俺達は予定どおりの観光地を巡った。早くも所々雪が積もっていて、寒いけれど美しい新雪の景色に見蕩れる。
「楽しいね、鈴」
隣の彼は、頬を赤らめながら微笑む。
「うん。……楽しい!」
和巳さんがいれば、実際のところ何処へ行っても楽しかった。それはやっぱり照れくさいから、心の中だけに仕舞っておく。
どれだけ時間が経っても、どれだけ場所を移っても、こうして並んで歩きたい。
彼と、生きていきたい。
この先どんな障害が待ち受けているか分からないけど、地球が滅亡する日まで一緒にいよう。……多分よっぽどのことがなきゃ、俺達が自然に死んでいく方が先だろうけど。
でもそれでいい。最期の時まで、俺は彼と一緒にいることを心に誓う。
「あっ、もうこんな時間! 鈴、そろそろ旅館に行かないと」
「え? あ、ほんとだ」
少し早足で、彼と手を引き合う。逆に転びそうだったけど、それも何か楽しかった。彼となら、別に転んで泥だらけになったって構わない。
時間か……。
時間は卑怯だ。きっと、この世で一番残酷な存在だ。
辛い記憶も楽しい記憶も全て奪っていく。気が付いた時には、残された時間を数えている。
彼と笑い合ってるこの一瞬も、奪われている。
なんてこと言ったら、この人は怒るんだろうなぁ。
何またネガティブになってるんだ、って。腕を組んでいじけ出すと思う。
和巳さんは残された時間を数える人じゃない。今日をどれだけ楽しく過ごせるか考えて、笑った回数を数えている。
そして明日は、今日より笑って過ごそうとしている。
だから、余計な心配なんだ。こんな心配をしてる間にも、容赦なく時間は奪っていく。これ以上奪わせない為に、笑って生きよう。
「鈴! ほら、早くおいで」
「そんな急がなくてもまだ大丈夫だよっ」
繋がった手のひらは、いつも俺を引っ張ってくれる。
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