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元不良少年の計画

#10

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一瞬の不意をつかれ、ベッドに押し倒された。秋は真上に覆い被さり、俺を見下ろした。顔は影がかかり、笑っているのに暗い印象を与える

「ああ……昔はしてもらってたな。でも今は一人で先に準備してるよ。やっぱ早く楽しみたいし」
「そっか。俺も、そう思ってた。でも、和巳さんはそうじゃなかったんだよね。準備も自分にやらせてほしい、って頼んできた。……矢代さんも、実はそうだったりしないかな」

何となくだけど、そんなことを言った。すると秋は数回瞬きして、首を傾げた。
「さぁ。最近は、そんな話もしなくなったから。……分からない」
「……」
顔のすぐ横に置いてある彼の手が、僅かに震えている。注意深く窺うと、彼の瞳は潤んでいた

「ごめん鈴鳴。俺、何でこんなになっちゃったんだろ。大人になったのに、前よりずっと弱くなった気がする」

小さな声を振りしぼり、瞼を伏せる。彼は孤独に支配されてる……それは間違いなく、以前の俺そのものだ。
「大丈夫だよ。秋は俺よりもずっと強い。俺が困ってる時は必ず助けてくれたじゃん」
「助けるとか、そんな立派なことした覚えはねえよ」
「助けてくれたよ。自覚がないだけだ」
無意識に人を助けている。それはつまり、困ってる人を助けるのは秋の中で当たり前ということだ。それって凄いことだと思う。

「だから自信持ってよ。俺、秋と友達になれて良かったって本気で思ってるんだ」
「鈴鳴……」

秋の肩が、僅かにビクッとした。手の震えは止まったみたいだけど、今度は口端を引き結んでいる。いつもの余裕たっぷりの姿なんてどこにもなくて、彼を知ってる友人なら驚いてしまいそうだ。

彼はやっぱり苦しそうに、少しずつ言葉を紡いだ。

「俺も、お前と友達になれて良かったと思ってる。お前、ちょっと正直過ぎるもん。和巳さんがどんな人間かよく分かんないからからすげえ心配で……」
「あはは。警戒心ないのはホントだ」

照れ隠しに笑ってると、秋の顔がかなり近い距離に迫った。
今までにない空気にドキッとした。息が当たる。他人の睫毛をしっかり確認する機会なんてそうそうない。
そして改めて、彼の整った顔に気付いて緊張した。あまり間近で凝視したくなくて顔を逸らす。けど顎を掴まれ、無理やり彼の方へ顔を引き寄せられてしまった。
また視線が交じる。彼は笑ってないけど、今にも眠ってしまいそうな蕩けた目をしていた。

「……やっぱお前って、可愛い顔してんな」





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