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三人分の食事
#13
しおりを挟む「ねぇ鈴、俺の近くにいられなくて寂しかった?」
「寂しくないよ、二日ぐらいっ」
「じゃ、何で怒ってんの」
「それはっ……和巳さんが、俺をからかうから……!」
強く放った言葉は、どんどん勢いをなくして無残に落下した。
「……知られたくなかった。子どもに妬いてるなんて、恥ずかし過ぎるじゃん……」
最終的に零れたのは、隠しておきたかった本音だ。でも和巳さんはそれを聞いて、嬉しそうに俺の頬を撫でる。
「妬いていいよ。俺からしたら、可愛い子が可愛い子に妬いてるだけだ。どっちも可愛いってことで、俺の完全勝利だよ」
「和巳さん……何言ってるのか分かんないよ」
ため息混じりに吐いた言葉も、息と一緒に奪われた。これからメロンを食べるつもりだったのに、彼は俺の唇を貪る。
「素直になるっていうのは、心を開くことなんだ。鈴、素直になってよ。鈴の心の中、全部俺に見せて」
「……」
心の中を見せる。それは時として身体を見せるよりも大胆で、且つ繊細なことかもしれない。本当に信じている人にしかできないことだ。
怖いし、恥ずかしい。ましてや“嫉妬”なんて醜い感情、見せていいとは思えない。幻滅されてしまう。
でも、振り向いてほしい。この相対的な感情に自分は犯されてる。
「……実はちょっとだけ、寂しかった」
「うん。……ごめんね」
彼が謝ることは何もない。ただ、触れられなかった時間を取り戻すように、愛撫は続いた。
大人げないのはやっぱり自分の方だ。でも彼に抱いてもらえるとあっさり忘れてしまったり。手に負えない感情が独りでに暴れている。
「そういえば叔母さんが、今度は一緒に家に遊びに来なって言ってたよ」
「ほんと? 一緒に行ってもいいのかな」
「もちろん、倖地君は喜ぶよ。最後は俺よりも鈴に懐いてた。良かったね、鈴お兄ちゃん」
それはちょっと含みのある言い方だったけど、もうつっこむ気もしなくて黙っといた。
「鈴は兄弟欲しかった?」
「うーん……でも和巳さんが近くにいたから、そこまで欲しいと思ったことはないかな」
「そっか。俺も鈴がいたから寂しくなかった。兄や姉が欲しいと思ったこともあるけど、自分が兄になるのも悪くないなって。……まだ小さいのに俺のあとを一生懸命歩いてついてくる鈴を見たとき、思ったんだ」
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