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三人分の食事
#9
しおりを挟む無事に和巳さんを保護し、ゆっくり帰宅した。慣れないことばかりで疲れたけど、気分は朝とは比較できないほど清々しい。夕飯は倖地君が食べたいと言ったオムライスを作って三人で食べた。
「ご馳走さま。美味しかった!」
彼は初めて、俺の目を見て空になったお皿を持ってきてくれた。それが何気に嬉しい。
「お粗末さま。じゃあ倖地君、和巳お兄ちゃんとお風呂入ってきな」
「んー……鈴お兄ちゃんも入ろう」
「えっ! いやいや、俺はいいよ」
驚いて断ったけど、倖地君は俺の手を掴むと和巳さんのことも呼んだ。彼が一緒にお風呂に入ろうと言うと、和巳さんは嬉しそうに頷く。
「いいねぇ、家族だもんね! ちょっと窮屈だけど、今日は三人で入ろう」
「ち、ちょっと和巳さん!」
浴室はかなり狭いから戸惑ったけど、和巳さんは強引に引き寄せ、小声で囁いた。
「倖地君とやっと仲良くなったんだから、入ろうよ。明日にはお別れなんだしさ」
そうか。やっと楽しくなってきたのに、この子は明日には自分の家に帰ってしまうんだ。
そう思ったらさっきまでの照れ臭い感情は身を潜めた。窮屈でしょうがなかったけど、二人と一緒にお風呂に入る。和巳さんが帰りに買った水鉄砲で遊んだりした。
小さい子と暮らす機会なんて、俺達にはまずない。
そう思うと、この一瞬が儚くて、だけど尊くも感じた。
「さぁ、今日は最後だから三人で寝よー」
倖地君が寝る時間になった時、和巳さんはそんなことを言い出した。でも、三人はさすがに危ない。和巳さんは寝相が悪く、俺も夜中起こされることがたまにある。
「あはは……和巳さん、俺は今日もソファで寝るよ」
苦笑しながら言うと、倖地君は三人で寝たい、と強請った。うーん、どうしようか……。
「じゃ、倖地君が眠るまでは俺もここにいるよ」
「やったぁ!」
何とか納得してもらい、三人で布団に入る。すると和巳さんが急に、変な提案をしてきた。
「よーし、俺が絵本を読んであげるよ」
「和巳さん、絵本なんてどこにもないじゃん」
「大丈夫、ほとんどインプットしてる。鈴がまだ小さい時、俺もたまに絵本読んで聞かせてたんだよ」
マジか。覚えてない……。
それはさておき、五歳の子に絵本の読み聞かせって楽しいのか分からないけど……倖地君はワクワクしてるから、とりあえずお願いすることにした。
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