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三人分の食事

#5

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後部座席に座る彼に聞こえないよう、小さい声でひそひそ作戦会議する。和巳さんは俺の言葉に納得したようで、「確かに動物もテンション上がるね。さっすが!」と笑顔になった。
そう……普通の子は、それなりに喜ぶと思う。でも、この子はどうだか。
ルームミラーでちょっと盗み見ると、彼は無表情で窓の外を眺めていた。



「やっぱ土日だから人がすごいや。倖地君、俺達から離れないようにね」

無事に動物園に着いた後、俺と和巳さんは入場券を買うために列に並んだ。倖地君は暇そうにしてるけど、こればかりは我慢してもらわないとしょうがない。
少し待って、券を購入してからようやく中に入る。倖地君は和巳さんに手を引かれ、色々な動物を見て回っていた。ただ、やっぱり和巳さんの歩くペースは速くて。

「うわあぁぁぁタイガー! タイガーだよ、鈴! 倖地君もっ……あぁ、タイガー言っても分かんないか。虎だよ虎!」

和巳さんは周りを気にせず、最前列に行って写真をバシャバシャ撮ってる。一番興奮してるのは間違いなく彼だ。周りにいる人は、動物よりも和巳さんに注目してる。普通にしてればかっこいいんだけどなぁ。
「和巳さん、もうちょっとゆっくり回った方がいいかも。倖地君疲れちゃうから」
「あっ、ごめん倖地君……! そもそも人混みで何がいるかも分かんないよね。よし、俺に掴まりな」
和巳さんは虎が見えるように、倖地君を高く担ぎ上げる。すると彼もかっこいいと言って笑顔を浮かべた。

何か親子みたいだな。若いパパ。ちょっと可笑しくて、笑ってしまった。動物園なんて来たのは数年ぶりだったけど、珍しい動物も多いから結構楽しい。学校の遠足を思い出した。
あらかた園内を見て回った後、倖地君は小動物の触れ合いコーナーでうさぎを抱いて楽しんでいた。俺達は少し離れたところで、その様子を見守る。

「天使が天使を抱いてる……」

和巳さんの撮影意欲は止まらない。でも、失敗したな。今日こそ俺もカメラ持ってくれば良かった。写真撮ったらあの子の両親に渡せたのに。
残念に思いながら佇んでいると、和巳さんはスマホを仕舞って俺の方に向き合った。

「ねぇ鈴、倖地君はいるけど……これ、ある意味俺達の初デートじゃない?」
「あ。言われてみれば」





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