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水やり
#17
しおりを挟む「和巳さんはちょっと変わってるけど、そんなところが好きなんだ。逆に言えば、しっかりし過ぎてても怖い。和巳さんの不安定なところが好きなんだよ」
「ありがとう、鈴。俺も、俺が大好き。でも鈴のことはもっと好きだ」
二人で見つめ合うけど、また矢代さんの視線に気付いて慌てて離れた。
「あぁっ懲りずにすみません!」
「いや。楽しいね、君達は」
矢代さんはまるで子どもを見るみたいに微笑んでる。でも、実際高校の先生だから……許容量は大きい方かもしれない。
さすがに大人は違うなぁと思ってると、和巳さんは咳払いして片手を翳した。
「ちょっと待ってください、誤解されたままは困るんで……本当に、俺は電車は乗れます。久しぶりの駅がクレイジー過ぎただけで、本気を出せば乗り換えぐらいできる」
「そうだよ和巳さん。その意気!」
その意気で、毎日本気を出してくれ。俺は通学時、彼の心配をするのは疲れた。
「ははは! 和巳さんは日本に戻られる前どこにいたんですか?」
「カリフォルニアです。高校を卒業した後、大学に留学しました」
「へぇ、それはすごい。俺も一回だけ行ったことがあります。なんと言っても、自然ですよね」
「えぇ。でも俺、カリフォルニアからほとんど出たことないんです。旅行する余裕がなかったのもそうだし、どこへ行くにも遠すぎちゃって」
「ははっ、それは分かります。帰ってくるのも一苦労ですよね」
二人は楽しそうに話してる。何か気が合いそうで、こちらとしてもちょっと嬉しくなった。
ふと時計を盗み見ると、もう深夜の二時を回っていた。
「和巳さん、もう遅いからそろそろ……」
「あ、ほんとだ。すいません矢代さん。遅くまで話に付き合ってもらって」
二人で席を立つと、矢代さんは首を横に振った。
「とんでもない。今日は、本当に助かりました。このまま泊まってほしいぐらいだけど……それも不躾なお願いなので、また遊びに来てください。秋も喜ぶ」
「ありがとうございます!」
矢代さんは、外まで一緒に見送りに来てくれた。
そこでまた思い出したように両手を叩く。
「鈴鳴君、さっきの電話のこと、本当にごめんね。君を帰すことに頭がいっぱいで、無責任なことを言ってしまった」
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