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水やり

#16

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それは俺も気になっていた。ちょっとドキドキしながら、和巳さんと一緒に固唾を飲む。矢代さんはそこで初めて気まずそうに手を振った。

「いや、大した意味はありません。単純に、会った時からずっとそう呼んでいるから。……どのタイミングで呼び方を変えればいいのか分からなくなってるんでしょう」

なるほど。確かに、俺も和巳さんに対していつ敬語をやめればいいのか分からなかった。それと同じ感じかな。
「へぇ。じゃ、お二人は付き合いが長いんですか」
「秋が高二のとき、担任だったので……もう三年になりますね。ははは……当時は間違いなく犯罪でしたね。とてもこんな風に打ち明けたりできなかった」
バツが悪そうに言って、彼は俺達を交互に見た。

「でも、今日は本当にありがとうございました。和巳さんとは、また会えて良かったです」
「えぇ、俺も」
「あ、そうだ……和巳さんはどうして矢代さんのこと知ってたの?」
彼は教員だし、接点はなさそうだ。知り合う場所なんて……。

「実は鈴の大学に行った日、道に迷っちゃってね。困ってたところを矢代さんが助けてくれたんだよ。イケメンだと思ってたら先生までしてるなんて、もうパーフェクト!」
「そ、そうなんだ。ありがとうございます、矢代さん」

やっぱり道に迷ってたんだ……。
あれ程までに駅が苦手な和巳さんが一人で大学に来れたことはおかしいと思った。そう、あの時は嬉しいというよりも不思議でしょうがなかったんだ。

「ははは、こちらこそありがとうございます。和巳さんと話してて、俺も楽しかったですから。東京には最近移られたんですか?」
「いいえ。東京生まれ東京育ちです」
「そ、そうですか」

和巳さんの堂々たる回答に、矢代さんは少し戸惑ってる。でも、そこはちょっと補足した方がいい。

「矢代さん、その……和巳さんはつい最近まで日本にいなかったんです。プラスお坊ちゃまなんで、車ばっかりの生活をしていたから、一人で電車も乗れなくて」
「ちょっと鈴、俺が何もできないみたいな言い方はやめてくれるかな。電車ぐらい一人で乗れる。乗り換えができないだけなんだ」

乗り換えができないんじゃ電車に乗れるとは言えない。でもそれを言ったら彼の最後のプライドも傷つけてしまう。黙っとこう。






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