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和巳の一日

#11

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秋と色々話したその日の夕方、一本の電話がかかってきた。
大学の帰り道、スマホがの画面を見ると“母”と表示されていた。
「もしもし、母さん?どした?」
『もしもし。ごめんね、急に電話して』
未だ過保護な母は、二週に一回は心配して電話を掛けてくる。以前和巳さんと一緒に暮らすことを伝えたらホッとしてたけど、今日は何の用事だろう。
『ちゃんとご飯食べてる?』
あ、いつもと同じ内容だな。
「大丈夫だよ。ていうか家事は和巳さんが手伝ってくれるからすごい楽してる」
『良かった。アンタ達昔は仲良かったけど、会うのは六年ぶりだから……心配してたけど、上手くやれてるみたいね』
「……うん」

父とは一切連絡を取らないけど、母には色々相談ができる。けど子どもの頃は、母のことすらあまり好きじゃなかった。いつも父の味方をして、ご機嫌とりに必死だったから。……それでも一旦離れてみると、母の有り難さが分かった。
本当に金欠で困ってるときは父さんに内緒でお金をカンパしてくれるし、食べ物や生活用品を送ってくれる。父の機嫌を損ねることが怖かったのかな、って気がしていた。俺と同じだったんだ。

『ねぇ鈴鳴、たまには家に帰って来なさいな。大学やバイトが忙しいのは分かるけど……お父さんも寂しがってるわよ』

途中まではうんうん頷いて素直に聞いていたけど、最後の台詞は聞き流せなかった。寂しがってる? 父さんが? んなバカな。

『貴方がお義父さんの家で大暴れしてから特に、鈴鳴鈴鳴、って一日二回はぼやいてるのよ』
「ちょっ、大暴れまではいってないよ。それに父さんが心配してるのは俺じゃなくて、面子だろ。今回のは申し訳ないけど、基本俺が変なことしないか見張っておきたいだけなんだ」

彼は一度だって、俺自身を心配してくれたことなんてない。できることなら首輪を繋いで監視したいんだ。……それほどまでに、俺は彼に信用されてない。おじいちゃん家のことで、その想いは一層強くなったはずだ。

『確かにお父さんは貴方に厳しいけど……貴方が嫌いだから、厳しくしてるわけじゃないのよ。それだけは分かってあげて』
「……分かんないよ。だって何も言ってくれないじゃんか」

つい子どもみたいに言い返してしまって、自分でも呆れて舌を出した。だけど、父はそういう人なんだ。必要最低限のことしか話さない。たまに家に帰っても、俺を見向きもしないから。




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