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和巳の一日

#8

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「俺は大人じゃないよ。早く帰ろうなんて大人気ないこと言った。ごめん」
「良いってば。店予約してたことすっかり忘れてたから助かったよ」
手が触れて、形を確かめるように握り合う。
彼の熱が直に伝わり、段々心が暖かくなった。

「和巳さん、もしかしてちょっと怒ってた? 秋が、何かすごい俺に構うから」
「怒ってないって言いたいんだけど。嫉妬はしてた、からそうかもしれない」
「いつもはあんな子じゃないんだよ、本当。俺は和巳さんが一番だから、それだけは信じてね」
「ありがとう。俺も、お前が一番だ」
彼の友人に嫉妬してる。俺はかなり嫉妬深いのかもしれない。独り占めにしたい気持ちが隠しきれない。
「さ、もうちょっとで着くから頑張ろう、和巳さん!」
でも、彼の笑顔を見てたら杞憂の気がしてくる。やっぱり安心して、癒されるから。
俺もけっこう鈴にコントロールされてると思う。いつも彼のことばっかりで、彼しか見えなくなってる。
恋って大変だ。良いことばかりじゃなくて、余計な心配もついて回る。彼を好きになればなるほど、振り回される。でもそれすら楽しく感じちゃうんだ。

「鈴、帰ったらいっぱい可愛がらせてね」
「えっ。わ、分かりました……」

彼は変なとこで敬語に戻る。別にプレッシャーをかけてるわけじゃないんだけどなぁ。
「鈴、ケース重そうだから俺が持つよ」
彼から受け取って、今度は俺がケースを引っ張る。
「これ、何が入ってんの? 授業に必要なもの?」
ケースに目をやりながら問いかけると、彼は一瞬固まった。しかしすぐに背筋を伸ばし、笑顔で説明してきた。
「そ、そう! グループワークに必要な文献を図書館からたくさん借りたんだ」
「へぇー、頑張ってんね! 俺も勉強がてら借りて読んでもいい?」
「えっ! いやっ、……今回は、経済とは無関係なんだ! すごく変な哲学書だから、読んでもつまらないと思うよ。俺他にもっと面白い本いっぱい持ってるから、帰ったら渡すよ!!」
「ふーん……? 分かった、ありがとう」
やたら早口で捲し立てる彼を不思議に思いながらも、その後はレストランで美味しい夕食を食べた。
そのどれもが些細なことだけど、明日になればかけがえのない思い出に変わっていく。

同じ家に帰って、同じベットで眠る。彼と一緒なら、明日もきっと幸せだ。





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