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散り散り

#4

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子どもの頃に抱いていた和巳さんへの想い。それはきっと恋愛感情じゃなかった。

息苦しい家の中で夢見た親の愛情。俺はそれを優しい和巳さんに求めた。求めれば求めた分、彼は律儀に応えてくれた。無償の愛なんて言葉も信じることができた。
たった四つしか変わらない従兄弟に甘え、妬み、神聖視した。父の「刷り込み」を差し引いても異常だろう。

けど和巳さんが帰ってきたことで、また彼に尽くす人生が再開すると信じて疑わなかった。そんなこと誰にも求められてないのに。……強要されてないのに。
勝手な思い込みをして、謎の使命感に囚われて、彼をお世話することに満足していた。

馬鹿だな……。
和巳さんは大人だ。俺より歳上の、大人の人だ。
俺が考えていることは、全て余計なお世話でしかない。
切り離そうとしても、心の深いところに根付いてしまった信念。これを改めるにはどうしたらいいか。切っても切っても同じ枝が伸びてくるなら、もうこの木は幹から何とかしないと駄目なんだ。この心は枯れてもいい。だから、新しい苗を植えないと。
お世話になった彼と生きていく。これからはちゃんと、恋人として。

「あ、いた! おいコラ、鈴鳴!!」

ひとりで考え事をするには静かな図書館が最適。……だったけど、ある青年がすごい剣幕でやってきたので思考を切り替えた。
「おはよう、秋。昨日はありがとね!」
「ありがとね! ……じゃねえよ! 昨日のキャリーケース、家に持って帰ってから隠すの大変だったんだからな!」
そう言って胸ぐらを掴んできたのは、昨日ぶりの友人、秋。聞けば俺が譲ったBLグッズにとても悩み苦しんだらしい。

「例え友達の物だって説明しても、俺の恋人は信じないんだよ。あんな大量のゲイビ見せたら殺される!!」
「わ、わかった。わかったから落ち着いて、秋。声抑えた方がいいよ」

口元に人差し指を当てて制した。というのも、秋は興奮して気付いてないけどかなり声が大きい。静かな図書館内なら尚のこと、近くの生徒の視線を感じていた。
彼を宥めて場所を変えた。外の並木道を二人で歩く。一応、周りも気にしながら声を抑えて話した。

「ケースは秋の家にあるんだよね? じゃあ俺、今夜回収しに行くよ」




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