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お出迎え
#13
しおりを挟む不安が波のように押し寄せる。けど促されるままジョッキのビールを飲んだ。何杯か注ぎ足されたものの、底が見えることを祈って仰ぎ続けた。意志に反して意識はどんどん曖昧になっていく。
二十歳になったばかり、正直まだ酒を美味いとも思えてない、普段なら一杯でダウンの俺が挑んだ壁。
────それはもう、未知の領域だった。
「暑い……」
気付けば、ひとりで壁にもたれかかっていた。頭がボーッとしてすごく暑い。顔も身体も。
水が欲しい。
フラフラと立ち上がって、一番近くの瓶を手に取った。
少しして、誰かの叫び声が響く。
「ち、ちょっと君、何やってるんだ!?」
会場がざわめき出す。なにかあったんだろうか。
とりあえず水飲もう……。
「ちょっとちょっと! あそこの彼、花瓶の水を飲んでますよ! 止めて止めて!」
花瓶の水……?
頭の中で声だけが反響してる。花瓶の水を飲んでる奴がいんのか。それはやばいなー、とか思いながら水を飲み続ける。
その直後、頭上で雷のような怒声が聞こえた。
「鈴鳴っ!! お前、何してるんだ!?」
親父の声だ。どうしたんだろう、そんな怒って。
ボーッとしながら、空になった瓶を膝の上に置いた。そして視線を下に移す。何故か周りには、鮮やかな花がいくつも落ちていた。
「……あれ?」
まさか。
背筋が凍り、段々意識がクリアになっていく。しかし状況を理解するより前に襟元を掴まれ、全身に衝撃を受けた。
「きゃあぁっ!」
今度は耳を劈くような悲鳴が上がる。
「痛……っ」
背中を壁に打ち付けたみたいだ。ぼやけていた視界が鮮明になる。俺、何してたんだ……?
未だ混乱して、打った場所を撫でる。しかし前を見ると、顔を真っ赤にした父が立っていた。
「一体何のつもりだ!? 何で花瓶の水なんか飲んでる!」
「……!!」
彼の言葉に、鈴鳴はようやく状況を察した。
部屋に置いてあった気がする花瓶が膝の上にあり、周りは水浸し、花が無惨に周りに落ちている。
俺、花瓶の水を一気飲みしてた……!?
だからちょっと変な味だったのか。納得納得……じゃない! マジかよ!!
吐きたいぐらいだったけど、とてもそんなことができる状況じゃない。
「愚息がお騒がせして大変申し訳ない。ほら、お前も謝れ!」
「うはっ!」
急に頭を押さえつけられ、土下座するような形で床に手をついた。
訳が分からない。一体何が起きてるんだ。
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