6 / 156
お出迎え
#5
しおりを挟む中腰になって見ると和巳さんは女子トイレに入ろうとしていて、女性の店員に止められていた。
「あ、本当だ。すいません、何も見ないで入ろうとしちゃった」
そう言い残し、男子トイレに入って行った。
和巳さん……!
帰国早々トイレを間違えるとは。でもそんなおっちょこちょいな所も彼の魅力のひとつだ。下手したら警察沙汰だけど。
二杯目のウーロン茶を飲みながら、彼への止まらぬ愛と妄想の海に浸かった。
本当に懐かしい……。
和巳さんには何から何までお世話になった。だから今度は、俺がその恩を返す番だ。頑張らないと。
そう自身の胸に言い聞かせてると、彼は小走りで戻ってきた。
「おーい鈴。聴いてくれよ、今間違えて女子トイレに……あっ!」
驚くことに彼は何もないところで躓き、俺の座るテーブルに顔面から激突した。
「だ、大丈夫ですか!! お怪我は!?」
「いたた……いや、大丈夫。当たりどころが良かった」
「は……!?」
よく分からないけど、幸い怪我はなさそうだ。
さすが和巳さん。大胆にずっこけても一切の動しない。むしろ風格すら感じる。
「ん……?」
ところが、ここである大問題に気付いた。ぶつかった拍子に倒れた俺のウーロン茶が、彼のズボンをぬらしている。しかも最悪なことに股間にピンポイント。
「和巳さん! 股間が大変なことになってます!(※小声)」
「ほんとだ、何か冷たいと思ったら……!」
「大変だ……す、すぐにトイレに……」
だが、やはり彼は落ち着いていた。変色した自身の股間を鞄で隠し、トイレの方に向き直る。
「慌てんぼうだな、鈴は。これぐらいで大騒ぎしてたら生きてくのが大変だよ」
そう言って彼は颯爽と、しかし堂々と通路のど真ん中を歩いた。
さすがだ。俺なら冷静になるのに時間がかかりそう。
彼は俺の知らないところで、自分の力で生きてたんだ。頭では分かっていたけど、改めてその強さを思い知る。
この人についていきたい。昔と同じように、ただ一途に。
……彼のお世話をしたい。そう思った。
「お客様! そっちは女子トイレです!」
「うあっすいません」
トイレの方で聞こえた会話から、また強くそう思った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
25
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる