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#8
しおりを挟む深夜の玄関は不気味さを醸し出していた。
音を立てないよう、ゆっくり扉の鍵を開ける。でも微妙に物音を立ててしまった。こんな小さな音にすら腹が立つ、自分がアホらしい
なんだこのドキドキは。
こんな時間に家に帰ったの、多分生まれて初めてだから……かな。
あ、電気ついてる。
嫌な予感がしたものの、とりあえずリビングへ向かう。そこにはまだスーツ姿の父がいた。
「ただいま。……何してんの?」
「それはこっちの台詞だ。いま何時だと思ってるんだ」
「朝帰りよりマシでしょ。帰ってきただけ良いと思うんだけど」
鞄から財布だけ出した。確かにこの時間で警察に見つかったら補導されるが。
「明日休みだし、本当は彼女の家に泊まっても良かったんだけどさ」
「彼女?」
「そう。今日は楽しかったよ……って、ちょっと!?」
いきなり財布を奪われてギョッとする。しかもその拍子にいけないものが落ちてしまった。
次やる時の為にまた足しておいた、ゴムが。
父はそれを拾ってしばらく黙っていた。
「……ちょっと、返してくれる? また使うんだからさ」
嫌な沈黙だった。さすがにこの空気は辛い。
彼からゴムを奪い取って、部屋に戻ろうとする。しかしそれもやはり阻まれる。
「待った。やっぱり話し合いが必要みたいだな」
「はぁ? 何の」
眠気と怠さを抱えた状態で持ち上がった提案に、本気でめんどくさくなった。
父は過保護なんだ。それは絶対間違いじゃない。
怒りは段々薄れて、狡さが勝った。適当に折れとけば納得するだろう。
「わかった、俺が悪かったよ。遅くまで彼女とセックスしててゴメンナサイ。門限はちゃんと守ります」
自分の耳でも、とても心から反省している様には思えなかった。
やっちゃった、って感じがしたけど……逆ギレに近い想いがふつふつと湧き上がってきた。
「でも大体さあ、これが普通でしょ? 父さんだって母さんとセックスして俺を作ったんでしょ? なのに今、男と付き合ってセックスしてる父さんは頭おかしすぎ。俺に説教する資格なんてないだろ」
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