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一泊
#5
しおりを挟む「圭一、もう本当にダメだってば……!」
流されたら、もっと深いところまで求めてしまう。
そうなったらお終いた。こんな所で。
縋るように名前を呼ぶと、身体を支えられる様に抱き寄せられた。
「理性保ってらんないな、もう……」
圭一は乱暴に頭を掻く。彼が今何を考えてるのか分からなくて、少し不安になった。
怒ってる? とは、ちょっと違うか。
こちらの様子に気付いたのか、圭一は苦笑して身体を離した。
「ごめん。湊があんまり可愛すぎるから」
「何言ってんだよ……」
さっきからそればっかだ。怖かったから安心したけど……でも、そうじゃなくて。
「可愛い、とかじゃなくて、……好きって言ってよ」
頑張って振り絞った声は、本当に小さかった。
「え? なになに、急に改まって」
普段なら絶対言わないようなことを言っちゃったから、圭一はニヤニヤしながら食いついてきた。
あー、やっぱ言うんじゃなかった……。
思わず片手で顔を隠すけど、簡単に引き剥がされる。
「湊、もう一回言って」
「やだ」
「じゃ、言ったら何でもする」
圭一は屈んで、俺と同じ視線になった。
「……っ」
真正面から見つめられたら、例え自分じゃなくても大抵の奴は落ちると思う。
本当、それぐらいのイケメンだった。出会った時はド変態のドSだったくせに。
でも……。
「いや、違うんだ……何もしなくていいよ。一緒にいてくれれば」
震えそうになりながら、彼の瞳をとらえる。
「でも好きって言ってもらえたら、正直ほっとする」
やばい。我ながら何て怖いセリフだ。
でもやっぱり、そんなセリフが変態の彼には高評価らしい。急に真面目な顔でキスしてきた。
「分かった。でも強いて言うなら……俺は湊が好きなんじゃなくて、愛してる」
「……っ」
好きって言ってほしかっただけなのに、何でまた斜め上を行く返事をするんだろう。
それがまた、クセになりそうなんだけど。
「おぉー、ほら見て湊。超綺麗」
めんどくさいやり取りを終え、脱衣場を出た俺達はその景色に目を奪われた。
「ほんとだ。夜明けなんだな」
昨日は眠ってしまって来れなかった露天風呂。圭一はこれがどうしても心残りで、俺を叩き起してここに連れてきたらしい。今分かった。
「すごい……やっぱり海って大きいな」
見事に海が見晴らせる場所で良かった。
果てなく広がる水平線に、昇りかけた朝日。
昨夜見た時は真っ暗だったから、正直あんまり海の広さに感動したりしなかった。
「昨日とおんなじ、他に誰もいないね」
圭一が風呂に入ったんで、続けて入る。
「ほら、朝風呂最高でしょ」
「そーだなー」
何か照れくさかったからちょっとだけ笑うと、彼は本当に嬉しそうに頷いた。
もうその笑顔が見れただけで、俺にとっても最高の旅行だった。
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