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一泊
#4
しおりを挟む「湊、……湊」
「んー……?」
ペチペチと頬を叩かれる。気持ちよく眠っていたのに、見事に現実に引き戻された。
「起きて。もう五時だよ」
瞼を開けた先には、覆い被さるように圭一の顔がある。
それは良いとして、彼の言葉が理解できない。もう五時? まだ五時の間違いじゃないのか?
しかしそれなら起こしたりしないだろうし。じゃあやっぱりその時間で合っていて、俺は起きなきゃいけない…のか……?
ダメだ、眠い。
「あー、また寝た。湊、起きないんなら俺も好き勝手しちゃうよ?」
「んっ!?」
途端に唇を塞がれて、息苦しさにもがいた。必死に彼の胸を押すけど、なかなか解放してもらえない。
「ふっ……あっ!」
「目、覚めた?」
頭に血が上りそうになったところで、彼は離れてくれた。
「湊は毎回キスで起こした方が良いのかな」
圭一はやれやれといった顔で布団の上に座った。
何でそんな風に呆れられなきゃいけないんだ、訳が分からん。
「朝っぱらから何言ってんだよ。大体あれ……五時って早過ぎじゃん。まだ寝てていいだろ」
「何言ってんの。せっかく早く起きたのに」
「お前だけな。そんなに暇ならテレビでも見てれば? 俺は寝るけど」
再び布団を被って横になると、顔面に枕を落とされた。
「よし、じゃあ枕投げしよう」
「うるさい! 一人でやってろ!」
「じゃあまたキスしていい?」
話が終わらない。
これ、どうあっても寝かせる気ねーな。
ガンガンと痛む頭を押さえ、ゆっくり起き上がった。
拗ねた子供みたいな、つまらなそうな顔を浮かべている圭一へ向き直る。
「はい、起きた。……何してほしいわけ?」
訊くと、彼はかなり近寄って俺の手をとった。
「ありがとう。朝風呂行こう!!」
圭一の台詞は、さっきよりはスムーズに頭に入ってきた。そういえば朝風呂入りたいってずっと言ってたっけ。
寝癖を直し、大きくあくびした。
「湊覚えてる? 俺達昨日風呂入んないで寝ちゃったんだよ」
「馬鹿にしてる? 覚えてるに決まってんだろ」
「何してたからだっけ?」
鼻先が触れそうな距離。鼓膜を揺さぶる低いトーン。
こういう時の彼の表情は、……艶かしいって表現が似合う。
「何って……」
掛け布団を引き上げ、膝元を隠す。 そんなの、わかりきってる事なのに。
恥ずかしくて言えない。目のやり場に困ってうつむくと、また突拍子もなくキスされた。
「うーん、やっぱり照れてる湊が一番可愛いね」
図星のせいか、ますます顔が熱くなる。
恥ずかしくて顔を枕で隠すけど簡単に奪われてしまった。
「さ、寝起きの可愛い湊も見ることができたし! 早く朝風呂行こう」
圭一はサッと立ち、部屋の鍵を手にとった。
「湊も。早く立って」
「分かったから急かすなよ」
「もう一分一秒が惜しいよ、俺は」
朝からハイテンションな彼についてけない。
正直まだ寝ぼけ眼のまま、圭一に連れられて大浴場へ向かった。けどまだ時間が早いせいか、途中の廊下では誰ともすれ違わなかった。
恐ろしいことに、脱衣場にも人の姿はなく。
「ん……っ」
二人は、また互いの熱を確かめ合った。
吐息を吸って、舌を溶かして、唇をなぞる。
するともう、止まらない。
「圭一……っ」
彼の胸を押して、顔を逸らした。
「誰か来ちゃうかもしんないから」
という文句を言ってすぐ、また唇を掠めとられた。
「可愛い。ずっと見てたいな」
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