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3日
#2
しおりを挟む優等生のわりに自由奔放で、真面目だけど変態で。
俺みたいな馬鹿に、やたら普通に接する。
「アンタって彼女いないの?」
気付けば、そんな質問が口から零れていた。
こんなこと訊いて何になる。……何を期待してるんだろう。日戸の反応が怖くて、耳を塞ぎたくなってる自分に内心笑いそうになった。
「いないよ。いたらこんなことしないって」
彼は布団をどけて起き上がる。
少し乱れた髪を直して、まだ寝ている湊の髪も手櫛で直した。熱が篭っていたせいか、互いに体温が高くなっている。
「そう言う湊は? 俺以外に気になってる子はいないの?」
「オイ、何で俺がアンタを気になってることになってんだよ」
顔が熱い。でも、何とか否定した。
「違うの? 残念だなー。俺、湊のあんな所やこんな所知ってるのに」
日戸の眼は、とても露骨に昨日の行為を漂わせていた。
「完全に無理やりだし、あれ人に言ったらぶっ殺すからな」
「あはは、言わないよ。俺達だけの秘密にしておきたいから」
ギシ、と音を立てベッドが軋む。少しだけ前のめりになった日戸の顔が近付いてくる。
「でもそんな秘密ばかりじゃ嫌なんだ。だからもっと教えてよ。湊のこと」
「……っ」
優しく重なる唇。
悲しいことに、以前よりも慣れてしまっていた。
「何で……こんなことすんの? 男で、学校違くて、都合が良いから?」
キスの音が周りに響く。
「俺が馬鹿だから、後腐れなく遊べるとか?」
何言ってんだろ、俺。頭おかしくなったのかな。
日戸は、キスはやめないが質問に答えた。
「まさか。……そっちこそ馬鹿にしてる?」
さっきより激しく、口づけが交わされる。
「遊びでここまでやるほど、高三は暇じゃないよ」
彼の体温を直に感じる。すごく、熱い。
……溶かされそうだ。
「湊、俺のことどう思ってる? そこら辺にいる、ただの優等生……くらいに思ってる?」
俺が知る、日戸は。
思ったより天然で、大人げなくて、変態で。強くて、優しくて、飽きない。
だから……。
「さーね。でも、そこら辺にいない優等生。って思ってる」
こんな奴と会ったことがない。
中学の頃は自分もそれなりに勉強していたのに、いつからか何もかも馬鹿馬鹿しく思えるようになった。
成績で区別されて、誰かが笑われる環境が嫌で嫌で仕方なくて。優等生には常に劣等感と嫌悪感を抱いていた。
自分が維持できなかったものを持ってることへの嫉妬と、羨望。そんな汚い感情を抱く時点で、彼らとは違うんだ。
人種が違う。……俺みたいな馬鹿とは。
そう思ってたのに。
「……良かった。俺もね、優等生を演じるのが大変だったんだ」
「え?」
何のことかと思って聞き返す。
日戸は少しだけ笑って、湊の頬にキスをした。
「周りのイメージに合わせただけ。俺は頭が良くて運動神経が良くて、それにちょっと優しいイケメンな優等生だって」
イケメンは余計だと思った。やはり彼は生まれついてのナルシストみたいだ。
「第一印象で判断する。人って単純だなぁってすごい思ったよ。でも、それでも、俺は理想の優等生を目指したんだ。困ってる人をほっとけない、正義の味方に」
正義の味方……。
「あぁ、俺と会った時もそうだったな。正義の味方気取りのクソ野郎だと思っ……いや、何でもない」
とりあえずこいつを見た時、俺とは違うって、直感的に思った。
「でも湊も本当は真面目だろ」
はぁ。不思議なことを言われた気がする。
「俺が真面目って……何でだよ、違うから」
でも言い返すと、鼻で笑われた。それが普通にムカついて。
「なんだよ?」
「あの時だって、俺がやる前に友達止めようとしてたじゃん。やり過ぎだって思ったんでしょ?」
「それは……」
クラスメイトの性欲が爆発してたからだっけ。
「女に手を出すのはやり過ぎだって普通に思うだろ」
「ね。結局そうなんだよ、湊は」
褒めてんのか貶してんのか分からないけど、日戸はにっこりと微笑んだ。
「俺、そういう子大好き」
「うっざいな! だから何なんだよ!」
マジでこいつのペースにはついていけない。
頭良い奴の中でも、悪い奴の中でも見たことないタイプで。
あ。ていうか、学力とか関係ないのかな。
俺は俺で、……こいつはこいつなのに。
大嫌いな成績で人を区別しようとしてたのは、俺の方かもしれない。
真面目な奴はつまらないなんて、必ずしもそうとは限らないのに。
「湊、ぼーっとしてるなら襲っちゃうよ」
「うわっやめろって!」
また不必要に身体を触られる。
おかしい。キモいって突き放さないといけないのに、何か可笑しくて笑ってしまう。
「この変態」
「そうかもね。湊に会ってから、俺もそんな気がしてきた」
ちょっとアバウトに言って、彼は目を伏せた。
「でも夢中にさせる方も悪い。……尖ってるくせにほっとけないことばっか言うんだからさ、湊は」
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