校外活動

七賀ごふん

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2日

#5

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「くそ……っ」

それから数十分後。
「湊、痛い? 何かしてほしいことある?」
ソファに横たわる湊に、日戸は心配そうに声を掛ける。知らない人間が見れば事後の微笑ましいやり取りに過ぎない。
ところが実際は、非情で残酷な行為の“その後”である。

しかも日戸はとっくに衣服を整え、清々しい顔をしている。湊の怒りは最高潮に達した。

「なに。何かしてくれんの? じゃあ死ね」
「ごめん、それは無理だ……。それ以外の~……例えばキスとかならいくらでもやるよ。ピロートークみたいな。まぁここはクッションしかないけど」
近くにあったクッションを思いっきり投げつけてやったが、彼は難なく受け止めた。

「本当に申し訳ないと思ってる」

そして打って変わったように俯き、声を落とした。

「まさかゴムなしで最後までヤっちゃうなんて……」
「本当に申し訳ないと思ってんのか?」

絶倫。いや、ただの変態だ。サイテー男だ。
レイプと一緒じゃんか、あんなの。
気持ち良くなんかなかった。って、とにかく真正面から否定しなければ。
「最悪だ。最初から最後まで! やり返す為でも、会いにこなきゃ良かった」
枯れた声で吐き捨てた。何故か途中で目を逸らしてしまったけど。

「それじゃ、どうもお邪魔しました!」

これ以上こんな変態と一緒に居られるか。服が乾いてなかろうがもう絶対に帰る!!
意気込んで立ち上がったが、突如後ろに激痛が走り、膝から崩れ落ちた。
「いっ……あ、……痛……っ」
「湊!」 
情けなく床に両手をつくと、日戸に抱き起こされた。だが、
「痛っ! ちょっと、そこ掴むなよ、このバカ!」
腰を掴まれると、どうしたって痛みが走る。親切で起こしてくれてるのは分かるが、耐えられるレベルの痛みでもなかった。そもそも元凶は彼にあるのだから。
「お前そんなんで何でモテんだよ。絶対なにかの間違いだし、本当に痛い……」
「ごめんごめん。モテるかどうかの真偽は別として、もうちょっと休んでいきなよ」
さっきよりは優しい動作でソファに連れてかれる。気を遣ってるのか飲み物まで出てきた。
「俺も課題終わらせないとって思ったのに……湊があんまり可愛いから我を忘れちゃった」
「かわ……」
舐め回す様な、色気を含んだ眼。ゾッとするけど、よくまぁ男をそんな眼で見れるなって思う。
とにかく俺はずっとドン引きしてる。一秒一秒がすごく長い。

時計の秒針が進む度に汗が吹き出るようだ。こんな緊迫感を覚えるのはいつぶりだろう。そうだ、歯医者に連れてかれて名前を呼ばれるまでの間みたいな。

もういいだろ。痛みを我慢しなきゃ家に帰れない。
「……か、帰る……」
「もう立てそう? それなら俺も帰ろ」
「は? 何で……」
あ、ここはこいつの住んでる家じゃないのか。
記憶力も低下してるらしく、呆けながら彼を見返した。


「君をそんな状態にしちゃったのは俺だし。責任とって、家まで送るよ」


逆らえない、というのは本当に辛い。結局、最寄駅まで日戸と一緒に帰った。本当は全力で御遠慮願いたいが、余計なことを言って逆鱗に触れるのも避けたかった。
「じゃあ、寄り道しないで帰るんだよ。あー、後……」
「?」
「電話番号教えて」

で。
何で素直に教えちゃってんだよ……俺……。
日戸と別れた後、一人むなしく溜息をついた。
相当やばいことをした。
あいつとヤッてる最中、どんな声を出したっけ?
どんな姿を見せたっけ……。
「うわあぁぁ………!! ひああぁ……っ!」
思い出してみたら恥ずかし過ぎて、その場に蹲って絶叫した。
今日起きたこと全て、夢であってほしい。ひとりになった途端抑えていた感情が溢れ出した。誰かに相談したいけど、誰にも言えない。
積み重ねた黒歴史は色も分からないぐらい塗り潰さないと。
そうだ。あいつのテリトリーに上がって、遠慮してたせいで好き放題されてしまった。次こそは俺のテリトリーに誘い込んで、今日の何倍もの復讐をしてやる。

────だけど、そんな事にはならなかった。

復讐なんてもんを果たす前にこちらの精神が擦り切れそう。あいつは悪魔だ。

次の日の夕刻。

「また………」

二時間ぐらい前からずっとスマホが鳴ってる。
着信だ。画面に表示されている名前は……日戸。
「もしもし」
無視したかったけど、堪忍袋の緒が切れた。
家のベッドに寝転がりながら、スマホを耳に当てた。
その電話の先からは、ムカつく彼の声が。
『やっと出た。湊、具合はどう? 悪い? わかった、ちょうど今お見舞に行こうと思ってたんだ。住所教えて』
「いやいやいや! いい、結構!」
怒りから一変、身の危険を感じて戦慄した。
『遠慮しないで。もう最寄駅まで来てるんだ』
何だそれ。怖い。
「せっ、折角来てくれて悪いけど、俺今日は……」
『教えてくれるよね? 昨日あれだけ熱いことした仲だし』
少し間が空いて、彼のトーンが低くなる。

『正直に言った方が良いと思うよ。……お互いの為に』

優しい物言いの脅しを受けて、二十分後、彼は家に訪れたのだった。
「おはよう、湊。もう夕方だけど、まだパジャマなの? それとも夜に備えて今から着たのかな」
「着替えてないんだよ、馬鹿」
いや、俺も馬鹿だけど。
何で憎い相手を軽々しく家に上げてんだ。





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