73 / 90
嘘
#30
しおりを挟む「幸せにしたいなんて、初めて言われたよ」
「ははっ。俺も初めて言いました」
ライトに照らされる桜が、暗い夜空を覆い隠す。
美しい景色に佇む彼の泣き顔は、これまでで一番綺麗だった。
ここはゴールではなく、スタートだ。でもここに来るまで本当に長く、険しかった。
闘っていたのは彼の方だ。何度座り込んでも、一歩も進めない日があっても、引き下がることはしなかった。だから辿り着けたんだろう。
「……大丈夫」
影山は夜空を仰いで呟いた。その言葉は心の中に留めて、もう一度彼の手を引いた。
悲しい音が、人々の笑い声で消えていく。泣き叫んでいた幼い子どもも、親からお菓子をもらった瞬間笑顔になった。
何も特別じゃない風景を二人で眺めた。夜風に急かされるように石畳の道を抜けて、市街へ向かう。予約していたホテルに到着した途端、たまっていた疲れがどっと押し寄せてきた。
「やっぱりもう歳かもしれないな」
ベッドに倒れて呟くと、窓の外を眺めていた影山が振り向いた。
「何言ってんです、品場さんはまだまだ若いでしょ。お酒頼みます?」
「うーん……」
瞼を伏せて考えていると、ベッドが軋んだ。触れそうな位置に影山が座っている。やがて手が触れて、覆いかぶさってきた。先程とは違う深い口付けに熱が高まる。結局“こっち”に走ってしまうんだから、自分も彼も相当だ。
でも今夜は特別ということにしよう。なんせ、彼に触れるのは明日からしばらくお預けだろうから。
影山の服を脱がせる。それと並行して、影山も品場の服を脱がせた。こんなことは初めてだ。脱がせているのに脱がされている、不思議な感覚に囚われる。
もうひとりの自分を見ているよう。
「ん……っ」
身に付けているもの全て脱ぎ捨て、正面から見つめ合う。やや遠慮がちに顔を近付け、唇を重ねる。前戯に時間をかけることなんて今までほとんどなかった。いつだって焦りながら、雪崩込むように交合っていた為気恥ずかしい。
舌を絡めて、影山の後ろにぬらした指を宛てがう。窮状を脱する手段だったセックスは、昨日で終わった。これからは互いの心を満たす為に繋がりたい。
丁寧にやるつもりがただモタモタしているだけのようにも思えた。彼も察したのか、苦笑しながら腰を密着させる。
猛った熱を小さな入口に擦り当てて数回、ぐっと奥へ押し込んだ。昨日と比べるときつい中。だけど、昨日よりずっとずっと気持ち良かった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる