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七賀ごふん@小説/漫画

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#23

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今回は影山も「美味しそうですね」と影山も即答したので、二人分買ってベンチに腰掛けた。
ここでも足元に桜の花弁が積もっている。至る所に桜色が見えるのは少し不思議な感じだ。
「美味いなー。このしょっぱさだとまたビール飲みたくなる」
「飲んでもいいと思いますよ。さっき屋台にありましたし、買ってきましょうか?」
「いや、今は我慢する。次は夜に飲みたいからな」
「じゃあ、夜は俺も飲みます。しばらく飲んでないんで」
影山は背を丸め、最後の一口を頬張った。
「……久しぶりに食べた。美味しかった」
ご馳走様でしたと礼儀正しく手を合わせ、割り箸をゴミ箱に捨てた。通り行くたくさんの人を眺め、影山は道端に佇む。
品場は今夜泊まるホテルを探しながら、その様子を見守っていた。

「ここにいる人は皆幸せそうに見えます。それはもちろん、観光地だからだろうけど……それだけではなくて」

段々と空の色が暗くなりだした。闇色に染まるまではまだ時間がある為、公園を出て街並みを見物した。土産物屋が建ち並び、観光客が楽しそうに買い物をしている。

「ふと思っちゃうんですよね。俺みたいな社会のクズがこんな所にいていいのかって。すごい場違いっていうか、悪いことをしてるみたい」
「でもお前のことなんて誰も知らない。お前が言わなきゃ、ここにいる不特定多数のひとりで、ただの観光客だろ。堂々としてればいいんだよ」
「悪いことをしてる気分なんですよ」

影山は同じことを繰り返した。品場は苦笑する。分かりやすく例えるなら、やるべきはずの宿題を放棄して遊んでいる学生の気持ちなのかもしれない。全力で楽しめない後ろめたさがある。
「悪いことか……つまり、社会のクズは旅行しちゃいけないのか。ニートや犯罪者も旅行に行くべきじゃない、って言うのがお前の見解か」
「そんなことありませんよ。とんな人だって楽しむ権利はあります」 
「でもお前が言ってんのはそういうことだぞ。それとも他人は良いけど自分は駄目、って?」
「……」
着物姿の女性をちらほら見かけた。子ども達はお面を被って、光る玩具を持って走っている。近くでもお祭りをやっているらしい。

「それは罪悪感に負けてるからだ。お前はいつも他人を許してる。……他人のことは許せる。だから今度は自分を許してやれよ」

一番賑やかな通りを抜けると、そこはほとんど住宅街だった。趣ある古民家に囲まれ、自分達が通った商店の明かりに照らされた。




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