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嘘
#14
しおりを挟むいつも優しい言葉をかけてくれる相談者がいた。
叱咤と命令しか受けない日々の中では、彼の励ましや吉報だけが心の支えだった。
だが同時に、この頃から彼ら相談者の特性に気付き始めていた。
この病の患者は性に奔放な者が多い。ストレートに言えば性欲が強い。普段は石のように動かない人も、隙を見せると近付いてくる。
その男性も家に訪問した際突然襲ってきた。驚きはしたが、抵抗はしなかった。押し倒されても、服を脱がされても、全力で拒絶しなかった。
もっとだ。もっとしたい。
気付いた時には彼に馬乗りになり、自分から受け入れていた。腰を揺らして、見下ろす景色を楽しんでいた。
射精する度に脳みそも吐き出してるみたいじゃないか。最高の気分に酔いしれて、帰路で嘔気を覚えて崩れ落ちる。その時も泣きながら家に帰った。
何で拒めないのか、それが分からなくて辛い。快感に流されて、後ろめたさに狂いそうになる。そんなことを繰り返し、相談者が過度に自分の周りを付きまとうことが増えた為、また異動させられた。
砂漠の中をもたもたと歩いてるような感覚。そんな中、彼に出逢った。
新しい上司、品場慎也。彼も今までの上司と同じだと思った。
けど少し違うと思ったのは、密かに趣味にしていた絵画を好いてくれていたことだ。勇気を出して出展した絵を気に入り、携帯の待ち受けにしていつも眺めてくれていた。恥ずかしくて中々言い出せなかったけど、初めて自分という人間を認めてもらえた気がした。
でも里川という男に誘われた時も拒めなかった。手を重ねて、服を脱いで……また、あの悦びと苦しみを迎える。その寸前で我に返り、彼を突き飛ばして家を飛び出した。
どこへ逃げても同じことを繰り返してしまう。品場と顔を合わせることも辛くなって、誰も知り合いがいない場所へ移った。誤算があるとすれば、品場が想像以上に粘る人間だったこと。彼は自分のことを追い続けた。もう上司と部下でもないのに。友人でも恋人でもないのに。
本当に不思議な人。
行木さんと一緒だったのかな。考えもしなかったけど。
「品場さん。俺のこと好きなんですか?」
何も身につけないまま、彼を再び押し倒した。引き締まった肉体を愛でるように舌を這わす。
きっと自分は、脳が壊れたら獣になる。そして彼を食いつくそうとしてしまう。
「好き……とは違うかな」
「じゃあどうして俺に付き纏うんです。嫌いだから?」
「ははっ。あぁ、そうかもな。逃げ続けるお前を追い詰めて、泣かしたいだけなのかも」
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