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嘘
#12
しおりを挟む「困ってる人を放っておけない善良な自分。困ってる人をさらに苦しめて、楽しみたい自分。昔は一ヶ月毎に現れていたのに、いつからか一週間、三日、一日、……一時間毎に入れ替わる。セックス依存も強くなった。半年に一回貴方とするぐらいじゃ全然足りない」
同じシーツにくるまった。影山はひきつけを起こしたかのように、瞬きもせずに肩を震わせている。そっと抱き寄せて、頭を優しく撫でた。
「相変わらず子ども扱いしますね」
「嫌ならもっとしっかりして、俺を安心させてくれないか?」
彼は困った顔で笑った。……“戻って”きている。
「ごめんなさい……品場さん」
「それは何の謝罪だ?」
「全て。それと多分、これから迷惑かけます」
そういった言い回しをするのは初めてだった。彼はいつも気丈に振る舞い、迷惑をかけるぐらいなら突き放そうとしてくるのに。
今は自分の胸に顔をうずめ、白い顔で怯えている。
「俺、もう無理です。今こうして話してる自分も、きっと明日には死んでる。なけなしの理性と良心が消えていくのが分かる。……ねぇ品場さん、俺が完全に壊れる前に施設に閉じ込めて、死なせてください。もうこの病の積極的安楽死も容認されたでしょ。俺の兄みたいに、誰かを直接傷つける前に死にたいんです。さっき俺は病院で人を殺そうとした……彼は優しい人なんです。だから、あそこで死んだ方が幸せだと思って」
「影山。落ち着け」
彼を抱き起こし、正面から見据えた。しかし彼は俯いてこちらを見ない。
「落ち着いてたら時間切れになります」
肩を押され、逆によろめく。
「滅茶苦茶なことを言ってるけど。記憶を失って人格まで変わったら死んだも同然なんですよ。明日の俺は俺じゃないかもしれない。毎日びくびくしながら朝を待って、昨日と同じ俺だった時どれだけホッとするか。分かりますか? 病状がどんどん軽くなっていってる品場さんに……っ」
言い終わらないうちに、彼の瞳から大粒の涙が溢れた。白い膝の上にいくつもの雫が落ちる。
「……すまない」
「謝らないでください。何で悪くないのに謝るんですか。皆……っ」
狂わなかった日なんてない。叫ばなかった日なんてない。
影山に会うと、……どれだけ日を置いていたとしても、それが痛いほど分かる。彼に会うと肺が穿孔したように息が苦しい。だけどわざわざ会いに行って、互いにもがく。酷く滑稽な道を自ら進んでいる。
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