53 / 90
嘘
#10
しおりを挟む現代の医療や化学では解明できない、人に伝染る未知の精神病。
予防はひとつ。罹患者を避けることだけ。人は闇を極端に恐れ、暗い感情に触れることを拒む本能がある。
自分と影山はもちろん、この病を持つ者に関わった人は皆精神状態が悪化した。メンタルヘルス対策無しに患者と関わることは自殺行為同然だった。それを知らなかった数年前の自分達は見事に伝染し、今日まで精神安定剤だけを頼りに闘ってきた。
影山の進行が特別速かったのは彼の元々の性格も災いしているのかもしれない。彼は元々分裂していた。幼少期に父から虐待を受け、唯一の味方だった母は離婚後に死去。兄と二人で育ったが、その兄も病に罹り無惨な死を遂げている。
六年前に影山が退職した後、納得できずに彼の経歴を調べた。そこでやっと、彼の異常性に気付いた。
彼は快楽主義者だった。相談者と関係を持ちやすいことから二度に渡って異動させられ、品場の職場に配属された時が上層部の最後の温情だったという。しかしそこでも揉め事を起こし、結果として姿を消した。
影山は嘘はつかない。本当のことしか言わない。少なくとも、言ったその時は……。だが破壊衝動に囚われた彼が顔を出した瞬間、全ては覆される。
里川の家に行った時、彼は詳しいことを何も言わなかった。
だからあの時に気付くべきだったんだ。彼が、里川に「襲われた」と一言も言わなかったことを。
「ふふっ……ん、……ふふ……」
影山は里川の家に行き、彼の誘いに乗ったのだ。後になって我に返り、家から飛び出したところ品場に保護された。
紙っぺらより簡単に反転する理性は、影山を壊し続けた。
今も狂ったように、泣きながら笑っている。
笑っては泣いて、喜んでは後悔して、を数年。彼はもう限界だった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
きょうもオメガはワンオぺです
トノサキミツル
BL
ツガイになっても、子育てはべつ。
アルファである夫こと、東雲 雅也(しののめ まさや)が交通事故で急死し、ワンオペ育児に奮闘しながらオメガ、こと東雲 裕(しののめ ゆう)が運命の番い(年収そこそこ)と出会います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる