50 / 90
嘘
#7
しおりを挟む「お久しぶりです。どうしてここに?」
夕影が反射し、目に映る世界を真っ赤に染め上げている。彼は扉に向けていた視線を雲井に戻し、ベッドの脇に手をついた。
「品場さん」
その名前は、湿っぽい声と共に吐き出された。
こうして相対しても、彼の様子は変わらない。揺れ動いているのは自分の方だと悟られないよう、口を閉ざした。
「施設に行ったら外出したまま帰って来てないって聞いて……可能性があるのは、何となくこっちかと思ってな」
彼が、自分の服や鞄に視線を寄越したのが分かった。わざわざ見なくても仕草や表情がはっきり分かってしまうことが憎らしい。
「とにかく、馬鹿な真似はよせ」
「…………」
品場に向かって折り畳んだままのナイフを投げる。彼は難なくキャッチし、首を横に振った。
「大変なことが起きてたみたいだけど、今回のことはニュースでしか知らない。詳しく話してくれないか?」
「貴方に説明する義務はありません」
「自分が悪いから言えないだけじゃないのか? お前はいつだって加害者だもんな」
再び、沈んだ沈黙が生まれる。膠着状態に陥るかと思ったが、影山はジャケットを羽織って扉の方へ歩いた。
「俺を加害者にさせる世の中がいけないんですよ」
廊下に出て振り返る。誰もいないことを確認し、品場に笑いかけた。
「なんてね。冗談ですよ、冗談」
影山が運転するクラウンで首都高に入った。助手席には品場を乗せている。道中、影山はハンドルを指で叩きながら鼻歌を歌った。
「品場さん、この後本当にお暇なんですか?」
「まぁ……それよりお前は? 仕事中だろ?」
「今日は早退ってことにして、このまま直帰すると連絡しました。それで良いんです。どうせもう」
「辞めるのか」
「もう誰も困りませんもん」
巨大な斜張橋を渡り、港湾を目指す。道が空いていた為、一時間程で自然公園に到着した。大体は家族連れが、散歩やピクニック目的で訪れる。夜はシンボルになっている展望台で、港の夜景を眺望できる。長年地元で愛されている行楽の場だ。
「……潮風だ」
車から降り、海の前を横切って展望台へ向かう。エレベーターで三階まで上がり、それから階段を少し。高さは大したことないが、丘の上の為見晴らしはそれなりに良い。
日が落ちる。海はオレンジ色に染まっていた。
ラウンジは人が疎らで、他の客の話し声はまったく届かない。
「品場さん、ここに来たことあります?」
「いいや、初めて」
「じゃあ良かった。俺は十数年……いや違うな、二十年ぶりです。もう来ないと思ってたのに……」
影山は不思議そうに、人差し指を唇にあてた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
ジョージと讓治の情事
把ナコ
BL
讓治は大学の卒業旅行で山に登ることになった。
でも、待ち合わせの場所に何時間たっても友達が来ることはなかった。
ご丁寧にLIMEのグループ登録も外され、全員からブロックされている。
途方に暮れた讓治だったが、友人のことを少しでも忘れるために、汗をかこうと当初の予定通り山を登ることにした。
しかし、その途中道に迷い、更には天候も崩れ、絶望を感じ始めた頃、やっとたどり着いた休憩小屋には先客が。
心細い中で出会った外国人のイケメン男性。その雰囲気と優しい言葉に心を許してしまい、身体まで!
しかし翌日、家に帰ると異変に気づく。
あれだけ激しく交わったはずの痕跡がない!?
まさかの夢だった!?
一度会ったきり連絡先も交換せずに別れた讓治とジョージだったが、なんとジョージは讓治が配属された部署の上司だった!
再開したジョージは山で会った時と同一人物と思えないほど厳しく、冷たい男に?
二人の関係は如何に!
/18R描写にはタイトルに※を付けます。基本ほのぼのです。
筆者の趣味によりエロ主体で進みますので、苦手な方はリターン推奨。
BL小説大賞エントリー作品
小説家になろうにも投稿しています。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる