カテゴリー

七賀ごふん@小説/漫画

文字の大きさ
上 下
40 / 90

#14

しおりを挟む



所長は感情が欠落してると言う人がいる。あまりにも反応が薄く、表情が乏しい。憤ることがなければ喜ぶこともない。
それは間違いじゃない……だが彼は彼で、自分を卑下し過ぎなのだと思う。

「行木さんは本当に優しいね。無理して庇わなくてもいいんだよ」
「無理なんかじゃ……!」

快晴の日、所長に誘われて、畑でじゃがいも掘りをしていた。住宅街からも離れた施設の周りは畑が一面に広がっている。施設ができてからはこの一帯のオーナーが畑を貸してくれたそうだ。裏庭も雑草が繁茂して酷い状態だったらしいけど、協力して綺麗にしてくれたらしい。

「実際俺、人を避けてるところがあるから。必要以上に干渉しない。多分昔と違って、干渉されることが嫌いになったからだろうけど」

所長は掘り起こしたじゃがいもを、台車の上のカゴに入れた。
「昔は違ったんですか」
「疑ってんね~。そりゃ俺だって輝いてた青春時代ぐらいあるよ? あれが人生の絶頂期だった」
「所長が輝いてた……って、ちょっと想像できないし、何かすごく気になります。恋人とかいたんですか?」
「それはノーコメント」
土まみれの軍手を叩いて、また移動する。
「そもそもあの頃は馬鹿を演じることに酔ってた。でもいつだったか、それが馬鹿なことだって気付いちゃったんだよね。皆に笑ってほしかっただけなんだけど、……笑われるのと笑わせるのは違うし」
ぶちぶちと、根を引きちぎる音が聞こえる。
「無口で無愛想な独身男には、性別関係なしに誰も近付いてこないよ」
「だからそんなことありませんて!」
体勢がきつかったので、地面に手をついて顔を上げる。
「本当にそうなら、俺はどうなるんですか!」
「行木さんはー……変わってるってことで」
「適当に流さないでくださいよ!」
必死に訴えると、彼はごめんごめんと言って笑った。こうしている分には冗談も通じるし、無愛想というわけでもない。ただ最初に踏み入るタイミングが掴みにくいだけ。
所長は徐に立ち上がり、腰を叩いて振り返った。
「あー、運動した。じゃがいもって他の野菜と比べて放置してても勝手に育つから好きなんだけどさ。……人もそうなら良いのに」
軍手を外し、額の汗を拭う。こちらに手を伸ばし、彼は微笑んだ。
「お疲れさま、手伝ってくれてありがとね。帰ったら皆でじゃがバタパーティーしよう」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】気づいたら6人の子持ちで旦那がいました。え、今7人目がお腹にいる?なにそれ聞いてません!

愛早さくら
BL
はたと気づいた時、俺の周りには6人の子供がいて、かつ隣にはイケメンの旦那がいた。その上大きく膨らんだお腹の中には7人目がいるのだという。 否、子供は6人ではないし、お腹にいるのも7人目ではない?え? いったい何がどうなっているのか、そもそも俺は誰であなたは誰?と、言うか、男だよね?子供とか産めなくない? 突如、記憶喪失に陥った主人公レシアが現状に戸惑いながらも押し流されなんとかかんとかそれらを受け入れていく話。になる予定です。 ・某ほかの話と同世界設定でリンクもしてるある意味未来編ですが、多分それらは読んでなくても大丈夫、なはず。(詳しくは近況ボード「突発短編」の追記&コメント欄をどうぞ ・男女関係なく子供が産める、魔法とかある異世界が舞台です ・冒頭に*がついてるのは割と容赦なくR18シーンです。他もあやしくはあるんですけど、最中の描写がばっちりあるのにだけ*付けました。前戯は含みます。 ・ハッピーエンドは保証しません。むしろある意味メリバかも? ・とはいえ別にレイプ輪姦暴力表現等が出てくる予定もありませんのでそういう意味ではご安心ください

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

ジョージと讓治の情事

把ナコ
BL
讓治は大学の卒業旅行で山に登ることになった。 でも、待ち合わせの場所に何時間たっても友達が来ることはなかった。 ご丁寧にLIMEのグループ登録も外され、全員からブロックされている。 途方に暮れた讓治だったが、友人のことを少しでも忘れるために、汗をかこうと当初の予定通り山を登ることにした。 しかし、その途中道に迷い、更には天候も崩れ、絶望を感じ始めた頃、やっとたどり着いた休憩小屋には先客が。 心細い中で出会った外国人のイケメン男性。その雰囲気と優しい言葉に心を許してしまい、身体まで! しかし翌日、家に帰ると異変に気づく。 あれだけ激しく交わったはずの痕跡がない!? まさかの夢だった!? 一度会ったきり連絡先も交換せずに別れた讓治とジョージだったが、なんとジョージは讓治が配属された部署の上司だった! 再開したジョージは山で会った時と同一人物と思えないほど厳しく、冷たい男に? 二人の関係は如何に! /18R描写にはタイトルに※を付けます。基本ほのぼのです。 筆者の趣味によりエロ主体で進みますので、苦手な方はリターン推奨。 BL小説大賞エントリー作品 小説家になろうにも投稿しています。 

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

【完結】巨人族に二人ががりで溺愛されている俺は淫乱天使さまらしいです

浅葱
BL
異世界に召喚された社会人が、二人の巨人族に買われてどろどろに愛される物語です。 愛とかわいいエロが満載。 男しかいない世界にトリップした俺。それから五年、その世界で俺は冒険者として身を立てていた。パーティーメンバーにも恵まれ、順風満帆だと思われたが、その関係は三十歳の誕生日に激変する。俺がまだ童貞だと知ったパーティーメンバーは、あろうことか俺を奴隷商人に売ったのだった。 この世界では30歳まで童貞だと、男たちに抱かれなければ死んでしまう存在「天使」に変わってしまうのだという。 失意の内に売られた先で巨人族に抱かれ、その巨人族に買い取られた後は毎日二人の巨人族に溺愛される。 そんな生活の中、初恋の人に出会ったことで俺は気力を取り戻した。 エロテクを学ぶ為に巨人族たちを心から受け入れる俺。 そんな大きいの入んない! って思うのに抱かれたらめちゃくちゃ気持ちいい。 体格差のある3P/二輪挿しが基本です(ぉぃ)/二輪挿しではなくても巨根でヤられます。 乳首責め、尿道責め、結腸責め、複数Hあり。巨人族以外にも抱かれます。(触手族混血等) 一部かなり最後の方でリバありでふ。 ハッピーエンド保証。 「冴えないサラリーマンの僕が異世界トリップしたら王様に!?」「イケメンだけど短小な俺が異世界に召喚されたら」のスピンオフですが、読まなくてもお楽しみいただけます。 天使さまの生態についてfujossyに設定を載せています。 「天使さまの愛で方」https://fujossy.jp/books/17868

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

処理中です...