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七賀ごふん@小説/漫画

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極限まで蓄積した不満や怒りが爆発した。ただの八つ当たりだと分かってるが、もうどうでもいい。
床に膝を着いたまま、ベッドに顔だけうずめた。
夕食、良かったら外に置いておくから食べてね、という声が最後に聞こえた。小さくなる足音。

これじゃ本当のクズじゃないか。
ここへ来て初めて、行木は声を殺して泣いた。


深夜、消灯された施設の中を忍び足で歩く。点灯しているのは非常口や火災報知器のライトだけ。緑や赤が点在している。廊下は青い。以前は二階のバルコニーに出ることもできたけど、今は施錠されている。窓は三分の二だけ開けることができる。内部の者が窓から出ないようにしていて、それ以上は開かない。
行木は待ち合いスペースのソファに腰掛けた。食事は確かに部屋の外に置かれていたが、手はつけずに食堂へ戻した。
病院との違いは何なのか考えてみる。だが、そういえば入院したことがないので、詳しい違いは分からなかった。医療ニーズがある以外では、精神を病んでる者しか入れない……そして、一応は社会に出て、自立することを目標としている。入所金や生活費は全て国から補助が出るし、そういう意味では優遇されている。

だが本当の意味では諦められている。社会復帰してもこの病歴がずっと尾を引いて、まともな職には戻れないだろう。
人生なんて終わったも同然だ。必死に治療して、生きる意味がどこにある? 刑務所にいたくて、出所しても再犯して捕まる奴らの気持ちが少しわかった。結局中も外も地獄なんだ。居場所がないなら、まだ自分の部屋を与えてくれる場所に留まりたい。……と思うのは、至極普通のことだ。

いけないな。また卑屈になってる。
きっと今の自分をメンタルチェックしたら、過去最悪の数値を叩き出してる。
そしたらもっとここに居られる、……けど。
思考が黒く塗りつぶされる前に立ち上がり、部屋へ戻ろうとした。その時通りかかった共用トイレで、妙な音がした為立ち止まる。
水が流れる音。こんな時間に誰が……宿直の職員だろうか。
中からそっと窺うと、あの問題の多い雲井が奥に蹲っていた。
一瞬体調でも悪いのかと焦ったが、違った。気味の悪い水音と、気持ちの悪い、荒い呼吸。ズボンが床に落ちて肌が見えている。彼は自慰をしていた。

「……っ!!」

咄嗟にその場から離れら口元を手で覆う。有り得ない、正気じゃない。心底気持ち悪いものを見てしまった。





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