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七賀ごふん@小説/漫画

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それは病死でも事故死でもない。
自殺だ。だが今この国では、自殺を止められなかった職員が罪に問われることはほぼない。日々の生活記録や処方、最悪の事態を想定して全身の拘束をしておくなど、やるべきことをやっていれば責任の所在は自殺した当人に向けられる。

しかし死人に口なし。自殺に追いやった原因は間接的に存在したかもしれない。それでも証拠がなければ警察は必要以上に動かない。
遺書を残したり家族に伝えたりしていなければ、自殺した本当の理由なんて分からないのに。政府も落ちるところまで落ちたと思う。むしろここは少しでも精神病患者の割合を減らして、国を浄化させようとしているのだろうか。
一見患者の為につくられたこの施設も、社会から遠く引き離し、隔離するための牢獄にしか見えない。負の感情は健康な人の心に強く影響する為、伝染病扱いされることもある。自分達はウイルスを持った狂犬と同じなのだろう。
だから普通の人のように関わってくれる施設関係者や、所長のような人が尊く感じてしまう。これも恐らく、一種の洗脳。


行木は看護学校に入ったものの経済的理由から中退し、定時学校の編入を余儀なくされた。昼間はバイト、夜は学校。鬱になった父が暴力をふるうようになり、家庭が崩壊してから人生ががらりと変わってしまった。

父は行木がいない時に母に暴力をふるっていた。タチが悪いのは顔ではなく、腕や腹など、目に見えないところを重点的に狙っていたことだ。それまでにこやかに生活していた母の心が壊れたのは本当に一瞬で、それから気が触れてしまった。今は男性を見ると自分の夫だと思い、逃げようとして暴れる。幻視幻聴が絶えない。挙句の果てには行木のことも分からなくなり、暴力をふるった夫と勘違いするので、精神病院に入ってから面会は五回しか行っていない。その五回とも、身の回りのもの全て投げられ、怪我したこともある。でも今は精神薬を投与されて廃人のようになったので、会おうと思えば会える。何かをしようという意思がなくなったから、あの頃のように拘束具もつけられていないだろう。




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