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時
#21
しおりを挟む以前影山と訪れた時からそう経っていない、住宅地。品場は生活支援を受けている里川英彦の家に再びやってきた。
あのリスト通りなら影山はここに来ているはず。駐車場から玄関先までは走っていったのに、インターホンを押すのは躊躇してしまった。
ここまで来てまだ弱気になってる。怒りを通り越して呆れの笑いがもれた。
「ふぅ……」
今だけは躊躇うな。 影山の不安そうな顔を思い出せ。
あいつはひとりで全部背負い込むタイプなんだ。本当にできないことだってやろうとする。
……里川さんが影山になにかしようとしてる、なんて疑いたくはない。何もなかったらなかったで、様子だけ確認しよう。影山の無事を確かめるだけだ。
インターホンを押した。しかし反応がない。二回、三回と間隔を空けて押してみたが、やはり反応がなかった。
誰も居ない……? ドアノブに手をかけると、やはり鍵がかかっていた。それでも念の為ドアに耳を当てた。中から音が聞こえる。変質者に見られてしまうかもしれないが、職業柄安否確認はよくやることだ。近隣住民に見られたら説明すればいい。
それより中の音が気になる。テレビだろうか……。
人の声がする。ひとりが大声でなにかを叫んでいる。それが次第に大きくなり、はっきり聞き取れた時、心臓が止まるような思いがした。
間違いない。さっきから聞こえるこの声は、
「かげや……痛っ!!」
「いっ!?」
名前を呼び終える前に突然ドアが開き、衝撃で後ろのフェンスに激突した。ぎりぎりまで近付いていたせいでドアが顔半分に当たったし、ダブルで痛い。
でも、中から出てきた人物の姿を見たらそんなことは吹き飛んでしまった。
「品場さん。何で……」
出てきたのはやはり影山だった。だけどシャツはボタンが半分以上外れ、胸元が大きくはだけている。髪も乱れ、手には何も持っていなかった。
確実に誰かと争ったあと。そしてその誰かは、考えなくても分かった。
「おい、待て……あっ」
再び開いたドアから、里川が険しい形相で出てきた。しかし品場の姿を見ると驚き、また中に引っ込んでしまう。
「ちょっと里川さん! 待ってください!」
「違う! 俺は何もしてない!」
里川はそう怒鳴ると、なにかを投げつけてドアの鍵をかけてしまった。鞄とジャケット……影山のものだろう。
その後はどれだけ呼び掛けても反応がなかった。無理やり押し入っても良かったが、それより彼の方が優先だ。
「大丈夫か?」
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