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時
#19
しおりを挟む今日から頑張ろう、と意気込んだ日ほど大失態を犯すのは何故だろう。張り切りすぎたのか分からないが、この職場に来て初めて寝坊した。
ミサイルの如く家から飛び出し、品場は二時間遅れで出社した。幸い今日の朝は誰とも約束が入っていなかったので、直接的に迷惑をかけた者は所長以外にいない。それが幸いだった。
とはいえ大遅刻による精神的ダメージはでかい。再び心が下向きになる。しかも朝から影山の姿が見えないので、焦りに拍車をかけた。しかし誰かに訊く余裕もなく業務に追われる。
昼休憩の時に確認しよう。諦め、作業に必要なファイルを取りに別フロアの資料室へ向かう。そのとき見覚えのある青年とすれ違った。彼は……。
「あの……」
呼び止めると、彼は一瞬肩を震わせた。しかしその場に立ち止まり、話し合う姿勢で振り返ってくれた。
彼は確か、以前影山が面談していた青年だ。あの時はかなり無茶なことを言ってたと記憶している。
「突然すいません。私、影山と同じ部署の品場と申します。……なにかご用件があれば承ります」
唐突過ぎて逆に不躾だと思ったが、青年はほっとした顔で封筒を取り出した。
「ありがとうございます。でも大丈夫です、今日は診断書を提出しに来ただけなので」
心理状態を数値化した診断書。その紙切れが人々を真っ二つに分断させてしまう。自身も今まで何気なく受け取って処理していたのに、改めて複雑なものに見えた。
しかし本来の目的と思考が逸れた為、慌てて軌道修正する。
「担当の影山はどうですか?」
「どう、と言いますと……」
「えっと、ちょっと話しづらいとか、滅茶苦茶なことを言ってくるとか……ウチの中でも特にポジティブな奴でして。あ、真面目なのでそこは安心してほしいんですけど」
どうしてもこの前の会話が気になり、それとなく訊いてみた。とは言え影山の株をだいぶ落としそうだし、不審に思われる可能性も高い。悩んだ末、正直に打ち明けることにした。
「実はこの前、応接間で偶然聞いてしまいまして……影山が、仕事辞めましょうとか何とか言っているのを」
「……あぁ! そういえば、途中で顔を出した……貴方でしたね」
彼は納得したように頷き、それから慌てて首を振った。
「違うんですよ、あれは……私がネガティブなことを言ったら、影山さんが過激な言葉で返す練習をしてたんです」
「は?」
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