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時
#15
しおりを挟むこんな感情は初めてだった。
高揚して、謎のやる気が湧いて、何とかしないと、という焦りが生まれている。
他人はもちろん、自分を宥めるのも中々至難の業だと知った。
「品場さんに色々話せて良かったです。明日からまた頑張るつもりなので、宜しくお願いします」
影山は深くお辞儀して、乱れた襟を直した。そして立ち去ろうとしたけど。
『────明日から頑張ります』。
いつかの明るい声が蘇る。笑顔で話して、自ら暗い場所に落ちていった青年のことを。
気付いたら前へ踏み出して、影山の腕を掴んでいた。
「ど、どうしました?」
「いや、その……」
引き止めておいて二の句が継げず、視線を足元に落としてしまう。いや、これじゃ駄目だ。どう思われてもいいから伝えよう。
「頑張る……なんてのは、言わなくてもいい。辛くてしようがなくなるぐらいなら、頑張らないでくれ。……頼む」
無理しないでほしいと言いたかっただけなのに。結果として、何とも奇妙なお願いをしてしまった。
「わかりました」
どんな反応をされるか冷や冷やしたものの、影山は笑って頷いてくれた。
ホッとしたと同時に、何故かさらに胸が締め付けられた。彼の笑顔があまりにも明る過ぎたからだろうか。
でも、ここで微笑む彼は本当に心根が優しい青年なのだと思う。
「というか、品場さんこそゆっくり休んでくださいね。いつも思うんですけど、疲れた顔してますよ」
「あ、あぁ……」
触れようと思えば触れられる距離だ。気付くと右手が不自然に上がっていたので、さりげなく引っ込める。
それより本当に、俺の言ってることが「わかった」んだろうか。もっと突き詰めた方が良いのかもしれない。
……けど、それによって溝が深まることを恐れた。
「……また明日」
「はい。お疲れさまです!」
翻るロングコート。遠のく足音。
影山の後ろ姿がどんどん小さくなる。
でも、言うべきことは言ったよな……。
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