13 / 90
時
#12
しおりを挟む彼も自分も、仕事は順調だ。会社全体で見ても大きな変化はない。だがどこか釈然とせず、不安と焦燥が募る。残業組に影山が加わり、彼が誰にも頼らず、誰も彼を顧みずに仕事しているからだろうか。
ただ、だからと言って影山が困ってる様には見えない。それに自分はちゃんと頼れと言った。だから影山がひとりで突っ走って、独りで自滅したって自分には関係ない。
……なんて。いつからそんな冷めた人間になってしまったんだろう。
以前のやる気に満ちていた自分なら、何かしら違和感に気付いた時点で相手に突撃していた。それができなくなったのは、単純に自信を喪失してしまったことと、どう転ぶのか分からない、という恐れのせい。
自分の行動のせいで相手に及ぶ影響を恐れた。完璧にサポートしたつもりが、知らず知らずのうちに相手を追い詰めていたのだと知った。深く関わろうとすれば関わるほどに心を抉っていく。
けど誰にも相談できない。自分が誰かに頼れば、精神的に参ってると判断されて仕事の継続も危うくなるかもしれない。
でも、そもそもこんな弱気な姿勢で続けていい職種じゃない。
自分達は社会の一端を担っている。影山も同じで、本当は苦しいのにひとりで抱えているだけかもしれない。
「ふぅ……」
職場を出て、閑静なオフィス街を歩いた。見晴らしの良い歩道橋の上には自分しかいない。ふと足を止めて手すりにもたれた。
疲れてるな。体が弱ってる時は心も弱くなる。ぼーっとして交差点に踏み出してしまった時のように、再びネガティブな時期に入っている。自分はとうの昔に病に罹っている。
そんな時に助けてくれたのは、影山だった。
何となしにスマホの電源を入れる。青い発光の後、画面にもっと深い青が飛び込んだ。見てると心が安らぐ展望台の絵。
このままじゃ駄目だ。……変わらないと。
「品場さん、何やってるんですか?」
「うわあっ!」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
胸キュンシチュの相手はおれじゃないだろ?
一ノ瀬麻紀
BL
今まで好きな人どころか、女の子にも興味をしめさなかった幼馴染の東雲律 (しののめりつ)から、恋愛相談を受けた月島湊 (つきしま みなと)と弟の月島湧 (つきしまゆう)
湊が提案したのは「少女漫画みたいな胸キュンシチュで、あの子のハートをGETしちゃおう作戦!」
なのに、なぜか律は湊の前にばかり現れる。
そして湊のまわりに起こるのは、湊の提案した「胸キュンシチュエーション」
え?ちょっとまって?実践する相手、間違ってないか?
戸惑う湊に打ち明けられた真実とは……。
DKの青春BL✨️
2万弱の短編です。よろしくお願いします。
ノベマさん、エブリスタさんにも投稿しています。
ポケットのなかの空
三尾
BL
【ある朝、突然、目が見えなくなっていたらどうするだろう?】
大手電機メーカーに勤めるエンジニアの響野(ひびの)は、ある日、原因不明の失明状態で目を覚ました。
取るものも取りあえず向かった病院で、彼は中学時代に同級生だった水元(みずもと)と再会する。
十一年前、響野や友人たちに何も告げることなく転校していった水元は、複雑な家庭の事情を抱えていた。
目の不自由な響野を見かねてサポートを申し出てくれた水元とすごすうちに、友情だけではない感情を抱く響野だが、勇気を出して想いを伝えても「その感情は一時的なもの」と否定されてしまい……?
重い過去を持つ一途な攻め × 不幸に抗(あらが)う男前な受けのお話。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
・性描写のある回には「※」マークが付きます。
・水元視点の番外編もあり。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
※番外編はこちら
『光の部屋、花の下で。』https://www.alphapolis.co.jp/novel/728386436/614893182

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる