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時
#12
しおりを挟む彼も自分も、仕事は順調だ。会社全体で見ても大きな変化はない。だがどこか釈然とせず、不安と焦燥が募る。残業組に影山が加わり、彼が誰にも頼らず、誰も彼を顧みずに仕事しているからだろうか。
ただ、だからと言って影山が困ってる様には見えない。それに自分はちゃんと頼れと言った。だから影山がひとりで突っ走って、独りで自滅したって自分には関係ない。
……なんて。いつからそんな冷めた人間になってしまったんだろう。
以前のやる気に満ちていた自分なら、何かしら違和感に気付いた時点で相手に突撃していた。それができなくなったのは、単純に自信を喪失してしまったことと、どう転ぶのか分からない、という恐れのせい。
自分の行動のせいで相手に及ぶ影響を恐れた。完璧にサポートしたつもりが、知らず知らずのうちに相手を追い詰めていたのだと知った。深く関わろうとすれば関わるほどに心を抉っていく。
けど誰にも相談できない。自分が誰かに頼れば、精神的に参ってると判断されて仕事の継続も危うくなるかもしれない。
でも、そもそもこんな弱気な姿勢で続けていい職種じゃない。
自分達は社会の一端を担っている。影山も同じで、本当は苦しいのにひとりで抱えているだけかもしれない。
「ふぅ……」
職場を出て、閑静なオフィス街を歩いた。見晴らしの良い歩道橋の上には自分しかいない。ふと足を止めて手すりにもたれた。
疲れてるな。体が弱ってる時は心も弱くなる。ぼーっとして交差点に踏み出してしまった時のように、再びネガティブな時期に入っている。自分はとうの昔に病に罹っている。
そんな時に助けてくれたのは、影山だった。
何となしにスマホの電源を入れる。青い発光の後、画面にもっと深い青が飛び込んだ。見てると心が安らぐ展望台の絵。
このままじゃ駄目だ。……変わらないと。
「品場さん、何やってるんですか?」
「うわあっ!」
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