カテゴリー

七賀ごふん@小説/漫画

文字の大きさ
上 下
8 / 90

#7

しおりを挟む



「その通り。よく知ってるね」
淡白な返事とは裏腹に、品場は感心していた。今は皆鬱気味の人間と関わることを恐れ、“知り過ぎる”ことも避けている。その中で彼のように溌剌と説明できる者は極少数だろう。
「もちろん。だって俺も品場さんと同じ職業ですもん。でも新しい職場では新人なので、これから宜しくお願いします、先輩」
「はっ?」
彼はにこやかに言うと、やはりケースから一枚の名刺を取り出した。それは所属は違うものの、同系列の事業所名だった。特定精神病の専門支援員、影山一伊と記されている。
「俺来週から品場さんの部署に配属されるんですよ。まさかこんな偶然があるとは思わなくてびっくりしてますけど、お世話になります」
「あぁ……こちらこそ」
なんて恐ろしい偶然だ。これから後輩となる人物に借りを作ってしまった。ため息を飲み込み、力なく握手する。
「一緒に働くのが楽しみだよ。宜しく」
「宜しくお願いします!」
影山は子どものような笑顔を浮かべて軽く肩を竦めた。第一印象は頑固、次はやんちゃ、そしてその次は……ううん。今までの印象が全てひっくり返って、でもそれが何なのか分からない。自分はまだ彼という人間を理解できていない。それはきっと、この先も。
他人を完璧に理解するなんて死ぬまで不可能なのだろう。この仕事はそれをとても易しく教えてくれる。分かった気になるな。救った気になるな。常に理不尽な神が戒めにくる。どんな隙も逃さず、自分の影に潜んでいる。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

【完結】もっと、孕ませて

ナツキ
BL
3Pのえちえち話です。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

アダルトチルドレン

こじらせた処女
BL
 きょうだい児として生まれた凪は、小さい頃から自由が無かった。朝も、学校から帰っても、暴力的な兄を宥めたり、散らかしたものを片付けたり、時には殴られたり。介護要員として産んだ、進路選択の時に初めて反抗して喧嘩になった時にそう言われた凪は、我慢の糸が切れてしまい、高校卒業と共に、家を出た。  奨学金を借りて大学に通っていた時代にコンビニのアルバイトで出会った先輩に告白され、それが今の同居している彼氏となる。  ゲイでは無かった凪であるが、自立していて自分を大切にしてくれる彼に惹かれ、暮らし続けている。 ある日、駅のトイレでトイレの失敗をしている子供を見かけ、優しくしてもらっている姿に異常なまでの怒りを覚えてしまう。小さな時にしてもらえなかった事をしてもらっている子供に嫉妬して、羨ましくなって、家の廊下でわざと失敗しようとするが…?  

処理中です...