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時
#2
しおりを挟む十数年前ネガティブな人間が急増したことが社会問題となり、政策として、対象者には必ずひとりの専門員が支援することが決まった。とはいえネガティブを跳ね除けられるほどポジティブな人間は少数なので、結局ひとりで十数人、下手したら数十人という対象者を担当し、面倒を見ることになる。
対策本部とは別に、日々メンタルケアと調査記録を行う複合的な福祉事務所に勤務してまる四年が経つ。品場は既に職場の中核として、本部に送るデータ収集に奔走していた。
〇〇さんは最近積極的で安定傾向、〇〇さんは悲観的な言動が増えてきたから要注意。……場合によってはその日の行先、買ってきた物まで把握する。ネガティブ人は患者と同じ扱いなので、個人情報の管理もこちらで任されている。
毎日気持ちの上がり下がりを示したモニターの中のグラフはそれそのまま、その人のモチベーションを表していた。
誰かが悲しんでいると自分も悲しい。喜んでいる姿を見ると嬉しい。人は他者の感情に大きく影響される。でも喜びより怒り、悲しみや憎しみの方が強大な気がするのはどうしてだろう。もし多幸感の方が強ければ、世界はあっという間に笑顔に包まれるのに。
「品場さんもあまり根詰めないで。明日も仕事なんだし、ほどほどで上がってくださいよ」
「ありがとう。お疲れさま」
最後の残業メンバーが打刻し、職場内は静まり返った。品場は手元にあったエナジードリンクの残りを飲み干し、スマホに手を伸ばす。その待ち受けには先月訪れた展覧会で撮った写真があった。
少々荒々しいが、深みのある青で描かれた展望台の油絵。タイトルは〝あわい〟。作者の名前は忘れてしまったが、確かニックネームだったと思う。まだ個展も開いてない無名の油絵家だ。
一目惚れしたので写真を撮影し、ふとした時に見ている。バックの空、海、草原、展望台、全てが薄い青で塗り潰されている。面白い配色だと思った。唯一はっきり違うと分かる色は白い丸……光だろうか。それが中央に散っているだけ。
この作者の目には世界が青く見えるんだろうか。茶瓶に入ったサプリメントを飲み、ようやく帰り支度を始める。今日もよく働いた。けど誰も褒めない。叱られることない。何かが止まった国でひっそりと息をしている。
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