上 下
128 / 142
一年生の目標

14

しおりを挟む


ああ。今はいいけど、明日七瀬先輩に会うのが怖いなぁ……。
憂鬱なまま、藍色の空を見上げる。綿貫は智紀と家が同じ方向のため、一緒に最寄り駅まで歩いていた。

「綿貫君さ、夕夏に何かムチャぶりされてない?」
「えっ」

唐突な質問にどう答えればいいのか、正直戸惑った。そして同時に舌を巻く。
やっぱ鋭い人だ。彼の言う通り曇った顔をしていたのかもしれない……けど……。
「だ、大丈夫です。怖いけど、七瀬先輩を尊敬してるのはホントですから」
ただ、彼に命令されてゲイカップルを捜していることは言えない。
当然、俺がゲイだってことも。この人にバレたら、七瀬先輩にも迷惑を掛けてしまう。
「そっか。ならいいけど、あんまり我慢しちゃダメだよ?」
智紀は両腕を首の後ろに回して組んだ。
笑うと幼い顔になるのに、笑ってないと落ち着いた印象だ。そのギャップに少しだけどきっとした。

「ストレスとか色々。君、そういうの溜め込みそうだからさ」
「そ、そうなんですか?」
「ははっ、何となくね。気のせいだったらゴメン」

智紀さんは笑ってるけど、それが本気なのか冗談なのかイマイチ分からなかった。
「とにかく無理しないで。嫌なことは嫌だって言っていーんだから!」
「は、はい。……ありがとうございます」
それでも、優しい人なんだとしみじみ感じる。
気を遣ってくれてるのが分かる。
……俺も、こんな人になれるのかな。自分よりも周りを優先できる、強い人に。
「じゃ、俺はこっちだから……帰り気をつけて。また明日ね」
「は、はい! お疲れ様です」
別れ際に肩を軽く叩かれて、思わず笑顔がこぼれた。
でも……この感じ、何か懐かしい。

まるで初めて七瀬先輩と会った時みたいだ。

高校に入って、全然雰囲気に馴染めない俺に初めて話し掛けてきてくれたのは……やっぱりあの人だった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

眠るライオン起こすことなかれ

鶴機 亀輔
BL
アンチ王道たちが痛い目(?)に合います。 ケンカ両成敗! 平凡風紀副委員長×天然生徒会補佐 前提の天然総受け

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて── ※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。 ※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。 ※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...