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一年生の目標
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しおりを挟むああ。今はいいけど、明日七瀬先輩に会うのが怖いなぁ……。
憂鬱なまま、藍色の空を見上げる。綿貫は智紀と家が同じ方向のため、一緒に最寄り駅まで歩いていた。
「綿貫君さ、夕夏に何かムチャぶりされてない?」
「えっ」
唐突な質問にどう答えればいいのか、正直戸惑った。そして同時に舌を巻く。
やっぱ鋭い人だ。彼の言う通り曇った顔をしていたのかもしれない……けど……。
「だ、大丈夫です。怖いけど、七瀬先輩を尊敬してるのはホントですから」
ただ、彼に命令されてゲイカップルを捜していることは言えない。
当然、俺がゲイだってことも。この人にバレたら、七瀬先輩にも迷惑を掛けてしまう。
「そっか。ならいいけど、あんまり我慢しちゃダメだよ?」
智紀は両腕を首の後ろに回して組んだ。
笑うと幼い顔になるのに、笑ってないと落ち着いた印象だ。そのギャップに少しだけどきっとした。
「ストレスとか色々。君、そういうの溜め込みそうだからさ」
「そ、そうなんですか?」
「ははっ、何となくね。気のせいだったらゴメン」
智紀さんは笑ってるけど、それが本気なのか冗談なのかイマイチ分からなかった。
「とにかく無理しないで。嫌なことは嫌だって言っていーんだから!」
「は、はい。……ありがとうございます」
それでも、優しい人なんだとしみじみ感じる。
気を遣ってくれてるのが分かる。
……俺も、こんな人になれるのかな。自分よりも周りを優先できる、強い人に。
「じゃ、俺はこっちだから……帰り気をつけて。また明日ね」
「は、はい! お疲れ様です」
別れ際に肩を軽く叩かれて、思わず笑顔がこぼれた。
でも……この感じ、何か懐かしい。
まるで初めて七瀬先輩と会った時みたいだ。
高校に入って、全然雰囲気に馴染めない俺に初めて話し掛けてきてくれたのは……やっぱりあの人だった。
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