人の恋路を邪魔しちゃいけません。

一年生の目標

９

｢よっしゃー！ プールだ！！｣

午後プールの授業。綿貫と藤平は水着に着替えて、皆が泳ぐプールの前に佇む。
｢今日は最初だから自由に泳いでていいって。やったな！｣
｢ほんと？ それならヤッター……｣
ちょっとカタコトになったけど、しょうがない。そもそもそんな好きじゃないんだ。……プール。
｢行くぞ綿貫ー！｣
｢あ、待って……｣
彼の後に続こうと思ったが、ジャージの中にコッソリ入れてるスマホが鳴った。
やっぱり、七瀬先輩からのメッセージ。書かれていたのは、たった一言。
『溺れろ』。

こ……これは……っ。

｢ほら綿貫、早く来いって！ ｣
｢あ、うん……！｣
とりあえずジャージとスマホを置いて、一緒にプールへ入る。そして考えた。
先輩のメッセージ、どういう意味だ？
溺れる演技をしろってことかな。けどそれは……さすがに恥ずかしいし、大事になる。
うん。悪いけどこればかりは無視しよう。
泳げないのは事実だから、真ん中には行かない様にしておく。端から離れず、ただ水の中に浸かってるだけにしてると、藤平の方から近寄ってきた。

｢綿貫、真ん中行かね｣
｢いやっ……ごめん、ちょっと自信なくて｣

モゴモゴ言ってると、彼は可笑しそうに吹き出した。
｢お前ちっちゃいもんなあ。心配すんなよ、俺に掴まって練習しようぜ｣
｢でも……｣
｢大丈夫。怖かったらすぐ言えよ。やめるから｣
藤平は明るく微笑む。ほんとに、頼もしい奴だ。
｢……わかった｣
そうして、初めて彼の腕に触れた。水の中だけど、リアルな感触にドキドキする。事実だけど、泳げないって言って良かった。熱心に泳ぎを教えてもらえるなんて思わなくて、ほ憂鬱だったプールがとても楽しい時間になった。
やっぱり……好きだな。
今日一日だけで、先輩からのアドバイスは本当に役に立った。帰り際まで、嬉しさでいっぱい。

｢綿貫、俺と花村は帰るけど、お前は生徒会行くんだよな？ また明日な！｣
｢うん！ 今日はサンキュー、またな！｣

本当に楽しかった。この結果を、早く先輩に報告したい。藤平と別れてから、早足で生徒会室へ向かった。
｢失礼しまーす｣
三回ノックしてドアを開ける。
｢うわっ！？｣
その直後、水の入ったペットボトルが飛んできて、顔の横スレスレで壁に激突した。