人の恋路を邪魔しちゃいけません。

一年生の目標

４

綿貫が足早に部屋から出て行った後、隣と繋がってる倉庫室の扉が開いた。
出てきたのは、疲れきった様子の生徒会副会長、真弘だ。

｢真弘、先生に頼まれたファイリング終わった？｣
｢終わった。お前が手伝ったらもっと早く終わったけどな！｣

不満タラタラの彼に、夕夏はお茶のペットボトルを投げ渡した。
｢悪い悪い、大事な後輩の相談は聞き流せないからさ｣
｢あー、それそれ。聞く気なかったけど、お前ら声デカいから隣までまる聞こえだったよ？｣
真弘は渡されたお茶を飲みながら、夕夏の隣に腰掛ける。そして感心しながら微笑んだ。

｢綿貫の彼氏作りを手伝ってやるとか言ってたよな。
偉いなー、絶対協力なんかしない！って言うと思ったのに｣
｢もちろん協力なんかしない。全力で邪魔する｣
｢はっ！？｣

真弘は思わずお茶を吹き出しそうになるが、何とか押し込んだ。それから堂々とソファにもたれ掛かる夕夏の顔を覗き込む。
｢えー……と、夕夏？ お前、さっき綿貫には協力するって言ってたよな？｣
｢嘘に決まってんだろ。まさか俺がヤロウ同士の恋のキューピットになるとでも？ 頼む相手を見誤ったあいつが悪い。俺を差し置いて幸せになろうという魂胆も許せねぇ。……というわけで｣
夕夏はサッと立ち上がると、心底嬉しそうに声を弾ませた。

｢綿貫の恋路を邪魔しよう作戦開始だ！｣
｢おぉ……｣

ほんとに綿貫は頼む相手を間違えちゃったな……。
こんなにイキイキした夕夏を見るのは久しぶりだと、真弘はため息をついた。こうなった時の夕夏は誰にも止められない。加えて近くにいると火の粉がかかるので、できるだけ遠ざかっていたい。
｢ちなみに夕夏、作戦って何やるつもりなんだ｣
｢あぁ。でも俺も鬼じゃないからな。
わずかな時間だけど、ちゃんと綿貫の夢を叶えてやる｣
お。
｢……と、いうと？｣
｢本当に付き合うところまで手伝ってやって、カップルが成立したら見事に仲を引き裂いてやるんだ。ククッ……幸せからの転落……想像しただけでワクワクするだろ！？｣
｢そうか。俺はゾクゾクした。お前の考えてることがゲス過ぎて｣