88 / 142
転校生の快美
8
しおりを挟む翌朝、智紀は早起きして学校へ向かった。
久しぶりに謎の焦燥に駆られたからだ。こういう時のカンは不思議と当たるもので、教室へ向かうと案の定夕夏がひとりで何かやっていた。
「夕夏、おはよう。何やってんの?」
「おはよう。掃除だよ、掃除。黒板とかも綺麗にしたら気持ちいいだろ?」
「へぇ! 偉いなー、俺も手伝うよ!」
不思議に思ったものの、爽やかな夕夏の笑顔に心を打たれ、智紀もすぐに掃除を手伝った。
教壇の上を拭いたり、窓を拭いたり。どうせ放課後もやることだけど、朝一番にする掃除も悪くない。ここで過ごせる時間はあとわずか。普段お世話になってる教室への恩返しだと思い、真剣に掃除した。
「……ふぅ。夕夏、こんなもんでいいかな」
「サンキュー。じゃあ俺はトイレを掃除してくる」
「トイレ!? トイレはいいんじゃないか!? 清掃員さんがやってくれるよ!」
「でも普段から綺麗にしとけば掃除も楽だろ?」
にっこり笑って言い残すと、夕夏は教室を出て行った。
トイレ掃除を自ら進んでやるなんて只事じゃない。もちろんすごく良い心掛けだけど……何か不安だ。
それは気のせいじゃなかった。その後も、夕夏の変貌ぶりは一目瞭然。朝、登校してくるクラスメイトに素の笑顔を振り撒いたり、授業はちゃんとノートをとってバンバン進言している。
怖い。
嬉しい反面、謎の恐怖を感じた。
だから放課後、文化祭の準備で残ってる夕夏にこそっと近寄って訊いてみた。
「なぁ、夕夏。お前何か無理してない?」
「え? 別に何にも」
「嘘! 何かあるだろ……っ」
それをうまく言葉で伝えられずごにょごにょしてると、近くの友人が夕夏を呼んだ。物品調達の件で相談したいことがあるみたいだ。
「悪い、ちょっと行ってくる」
「う、うん」
夕夏の後ろ姿を見つめる。何でだろう。嬉しいはずなのに、妙な不安を覚えるのは。
自分の気持ちがよく分からないまま、一週間が過ぎた。
その後も夕夏の様子は変わらず、むしろ完璧な優等生に磨きがかかったように思える。
やめろ。一体どうしたっていうんだ。お前はそんなキャラじゃないだろ。
そんな言葉が喉元まで出かかったけど、珍しく絶好調な夕夏のやる気を削ぐようなことは言っちゃいけない。ここは恋人として、黙って彼の成長を見守ることにした。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
「誕生日前日に世界が始まる」
悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です)
凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^
ほっこり読んでいただけたら♡
幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡
→書きたくなって番外編に少し続けました。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる