53 / 142
生徒会長の過去(未来)
8
しおりを挟む───よし。今こそ、夕夏のガチガチに閉ざした心の扉を開けてやりたい。
そう思った智紀としては、早速行動に移りたくて仕方なかった。
「夕夏、今日の体育ほとんど自由って言ってたじゃん? どうせ皆まじめに動かないだろうから、お前が全部テキトーに決めちゃえよ」
「なんでだよ。絶対やだ」
冷めた返答にため息が出そうになる。いつも仕切るのが大好きなくせに、こういう所では消極的だなぁ。
「大丈夫だって、俺がいるから。今日一日は頑張ってみよう?」
夕夏は少し迷っていたけど、やがてため息をついて頷いた。
「どうなっても俺に怒んなよ」
「もちろん!」
同意を得て、二人一緒に教室へ向かう。その後の結果は……心配なんていらなかった。最後の授業の体育では、夕夏が決めたサッカーでクラス全体が盛り上がって終わった。
「ほーら! お前はやればできる子だと思ってたよ!」
思わず夕夏の頭を撫でまくると、彼は露骨に真っ赤になった。
「別に大した事してないじゃん。アンタの言う通りできるだけ喋っただけ」
「まぁまぁまぁ。それが大事!」
体育が終わり二人で校舎に向かう。途中、弥栄も話し掛けてきた。
「今日楽しかったよ。七瀬も、久しぶりに一緒にゲームできて良かった。ありがとな」
「……こちらこそ」
夕夏は相変わらず素っ気ない態度だったけど、これでも彼なりに頑張ってるのかもしれない。
「じゃ、またな」
「おう、サンキュー」
弥栄の後ろ姿を見送って、隣に並んで歩く夕夏を見た。
さんざん運動した後だから、すごく汗をかいている。何かちょっと、アレだな。
こういうの何て言うんだっけ。あんまり良くない方向な気がするけど……。
「何? 人のことじっと見て」
「あわっゴメン!」
普通に視線に気付かれてた。それに動揺して今度は自分の目が泳ぐ。距離感はもちろん、今まで気にもしなかったことで焦っていた。……会話が思いつかなくて困ってる。
「そ……うだ、どう? 一日頑張った感想は」
「言うほど頑張ってもないけどね。でも、悪くないんじゃね」
夕夏は少し顔を逸らした。その横顔は、まだ少し赤い。
「多分アンタが居たから尚さら楽だったんだと思うよ」
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。


僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
「誕生日前日に世界が始まる」
悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です)
凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^
ほっこり読んでいただけたら♡
幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡
→書きたくなって番外編に少し続けました。


代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる