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足音
#8
しおりを挟む「ちなみに、その……監視って、具体的にどんなことをされるんですか?」
「心配しないでいいよ。俺も自分の生活があるからね。四六時中君の行動を見張ることなんてできないし……こんな風に、時々雑談に付き合ってくれるだけでいい」
「それだけで良いんですか?」
「充分過ぎるぐらいだよ。村の秘密が世間に知られる危険因子に変わりはないが、君は別に犯罪者じゃない。村長だってそれぐらい分かってる」
明鐘はそう言ってくれたが、素直に頷くことはできなかった。
「……いえ」
心には暗い影が落ちている。
「犯罪者なんです。彼らにとって……俺は」
白希はテーブルに片手を置き、俯いた。
「村にいた時は存在を隠されて、村から出たら俺を殺そうと追ってくる人達がいた。俺が生きてること自体、困る人達がたくさんいる。それがよく分かりました」
「……」
「力を使いこなせてる宗一さんのような人は心配ない。貴方達が畏れてるのは、力を使いこなせていない俺だけ。……ですよね?」
村を出た能力者の監視というのは、半分本当で半分嘘だ。
宗一や道源、大我は東京に住んではいるが、たった一人で彼ら全員の動向を確認することなんてできやしない。探偵でも雇えば別だが、あの村がそこまで援助するとも思えなかった。
冷静に反応を窺っていると、明鐘はどこか嬉しそうに手を叩いた。
「やっぱり、君は聡い子だね」
白希が手をつけない為か、明鐘はカフェオレを手渡した。
「氷が溶けちゃうから早く飲みな」
「心配いりません。凍らすことができますから」
彼との間に冷気が立ち込む。
受け取ったグラスからパチパチと音がする。明鐘はまた瞼を伏せた。
「何度も言ってるけど、俺は敵じゃない。だから落ち着いてほしいな」
「グラス割れちゃうよ」と言われ、慌ててテーブルの上に置いた。
「思ったより意志が強くて好戦的だねぇ、白希君は」
「……すみません」
「ははっ、別に謝ることじゃないよ。村の奴らに殺されかけた、ってのは俺も初めて知って、驚いたんだ。道源がけしかけたに決まってるけど……大変だったね」
明鐘は頭が痛そうに呟き、こちらに向いた。
「でも、俺は事実を報告するだけ。……さっきの話に戻るけど、一応道源や宗一の行動もチェックはしてるんだ。本当にテキトーだけど」
彼はタブレットを取り出し、ひとつのファイルを開いた。そこには今言った二人の名前と、過去の記録が記されていた。
「こんな感じで適当に書いて、村のじーさん達に送るのさ」
「……俺に見せちゃって大丈夫なんですか?」
「見られて困るような内容じゃないから大丈夫。最早ただの日記だよ」
画面を閉じると、綺麗なガラス細工の待ち受けに切り替わった。
「でも、同い年の男の観察なんて本当に苦痛。……その点君の監視役を任されたときは、ちょっと嬉しかったね。なんせ村で一、二を争う美人だから」
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