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足音
#6
しおりを挟む鼓動が速くなる。大我のように白希の事情を慮ってくれる人物なら良いが、それ以外は“敵”と見なしてもいい状況だ。
「心配しなくていいよ。少なくとも今はまだ、君の敵じゃない」
「今は……」
「あ、むしろこう言った方が安心するかな。俺は道源の味方でもない。誰の味方でもないよ」
「……」
ますます意味が分からない。
反応に困っていると、同じく本を借りに女性がやってきた。
「俺、あと一時間で上がるから」
白希から視線を外し、彼は椅子に座り直した。
「もしまだ話をしたいと思ってくれたなら、入口のカフェで待っててくれ」
それだけ言うと、柔和な笑みを浮かべて女性の応対を始めた。
「……」
正直、困っている。彼が何者なのか知りたいわけではなく、自分を尾行した目的さえ分かれば充分なのだ。物騒なことをするつもりでないなら、深く関わるのは避けたい。
でもこの人、多分宗一さんの幼馴染なんだ。
物心ついた頃から村にいたのなら友人あたりが妥当だろう。
道源さんのような例外もいるけど、宗一さんの近しい人とは誠実に付き合いたい。
東京に長くいるなら村の仕来りに囚われてない可能性もあるし。……よし、ここは腹を括ろう。
どうせ家はバレてるだろうけど、幸いカフェなら周りに人がいる。変な真似はできないはずだ。
そう思い、彼の仕事が終わるまでカフェのカウンターでゆっくり窓を眺めていた。
一時間はゆうに超えていたが、約束通り彼は現れた。
「お待たせ。はは、本当に待っててくれたんだ」
「……お疲れ様です」
隣の椅子を引き、こちらも向きを変える。彼は鞄を下の荷物入れに仕舞い、にやっと笑った。
「いいね、警戒してる感じがすっごく伝わってくる」
「い、いえ……そういうわけでは」
「誤魔化さなくていいよ。むしろ安心してるし」
眼鏡を外し、彼はカウンターの上にある小さなメニュー表を手にとった。
「大人になるまで外の世界を知らなかった。力も使いこなせず、屋敷に閉じ込められていた人間が周りを警戒しなかったら、そっちの方が心配だ」
「俺のことを……よくご存知なんですね」
「あぁ。宗一のことも、道源のことも、……村のことは全部」
明るい店内で確かに抱く違和感。
これは焦燥だ。悟られないように視線を前に移す。
「貴方の目的は何ですか?」
俺を村に連れ戻すことだろうか。それとも、俺の存在自体消すことだろうか。
村の事情を詳しく知ってる人ほど、気を抜いてはならない。俺は村の平和を脅かす存在だから。
彼の回答を待つ間も、何度も手が震えかけた。それでも意志だけは冷静に保てたのは、宗一さんのことを思い出したからだ。
俺はともかく、彼に危害を加えるつもりなら話は変わってくる。膝元を強く握り締め、青年を見据えた。
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