熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
192 / 196
足音

#4

しおりを挟む


ドアの鍵をかけ、短いため息をついた。
さっきはパニックになって全然頭に入ってこなかったけど、俺の後をついてたあの男の人……本当にトイレのことで話しかけてきてたんだろうか?
見るからに都会の人っぽいけど、村にいたときのような、どこか懐かしい感じもした。
できれば会いたくないけど、気になってもいる。

「白希、雅冬は帰った?」
「はい、今お帰りになりました」

手を洗い、夕飯の支度を始めようとした。すると宗一さんもキッチンの中に入り、手に持っているなにかをかがけた。
「白希、プレゼントがあるんだ。今日からはこれをつけてほしい」
「は」
満面の笑みを浮かべる宗一さんの手元を見る。それは恐らく調理用の胸当てエプロンだった。

「服に油とかが跳ねてもいけないし。ね?」
「た、確かに……でも」

思わず笑顔が引き攣る。その理由は、彼が用意してくれたエプロンはピンクカラーで、可愛らしいフリルがついていたからだ。

これ絶対女性用……いや、女の子用ですよ、宗一さん。

彼の真意が掴めない。本気で似合うと思ったのか、はたまた……。 
でも俺のことを思って買ってきてくれたのは事実だ。それは本当に嬉しい。

「ありがとうございます、宗一さん! 嬉しいです!」
「ふふ、気に入ってくれて良かった。それじゃあさっそくつけてみて」

パッケージから取り出し、ほぼ強制的に首に掛けられる。着け心地は悪くないけど、何分どピンクだ。
「似合いますか? その、俺には可愛すぎるかも」
「いいや。目眩がしそうなほど可愛い。白希の可愛さが際立つというか……そう、エプロンが白希の良い引き立て役になってる」
よく分からないが、宗一さんは至極真面目な顔で口元を隠した。

「とにかくすごく似合ってるよ。私の目に狂いはなかったようだ」
「さすが宗一さん……! ありがとうございます。でもこれはこれで勿体ないというか……洗ってもとれない汚れがついたら申し訳ないので、なるべく気をつけてご飯作ります」

そう言うと、彼は目を細めて俺の頬にキスしてきた。
「そんなの気にしないで。私が好きでしてることだからね」
「でも……」
「何ヶ月一緒にいても、全然静まらないんだ。……心臓が」
彼の手が後頭部に回る。気付いた時には顔に彼の胸が当たり、抱き締められていた。
「白希といない時は早く会いたくて、一緒にいる時は幸せで落ち着かない。どちらにしてもソワソワするよ」
「宗一さん……」
彼の左胸に顔をうずめる。温かくて心地よい匂い。
世界で一番安心できる場所。

俺も彼と同じだ。でも。
      
「はは。宗一さんをソワソワさせてしまうのは申し訳ないけど……いつも俺のことを想ってくれてるなんて、すっごく嬉しいです」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
【陽気な庶民✕引っ込み思案の御曹司】 これまで何人の女性を相手にしてきたか数えてもいない生田雅紀(いくたまさき)は、整った容姿と人好きのする性格から、男女問わず常に誰かしらに囲まれて、暇をつぶす相手に困らない生活を送っていた。 それゆえ過去に囚われることもなく、未来のことも考えず、だからこそ生きている実感もないままに、ただただ楽しむだけの享楽的な日々を過ごしていた。 そんな日々が彼に出会って一変する。 自分をも凌ぐ美貌を持つだけでなく、スラリとした長身とスタイルの良さも傘にせず、御曹司であることも口重く言うほどの淑やかさを持ちながら、伏し目がちにおどおどとして、自信もなく気弱な男、久世透。 自分のような人間を相手にするレベルの人ではない。 そのはずが、なにやら友情以上の何かを感じてならない。 というか、自分の中にこれまで他人に抱いたことのない感情が見え隠れし始めている。 ↓この作品は下記作品の改稿版です↓ 【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994 主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻に関する部分です。 その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...