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足音
#4
しおりを挟むドアの鍵をかけ、短いため息をついた。
さっきはパニックになって全然頭に入ってこなかったけど、俺の後をついてたあの男の人……本当にトイレのことで話しかけてきてたんだろうか?
見るからに都会の人っぽいけど、村にいたときのような、どこか懐かしい感じもした。
できれば会いたくないけど、気になってもいる。
「白希、雅冬は帰った?」
「はい、今お帰りになりました」
手を洗い、夕飯の支度を始めようとした。すると宗一さんもキッチンの中に入り、手に持っているなにかをかがけた。
「白希、プレゼントがあるんだ。今日からはこれをつけてほしい」
「は」
満面の笑みを浮かべる宗一さんの手元を見る。それは恐らく調理用の胸当てエプロンだった。
「服に油とかが跳ねてもいけないし。ね?」
「た、確かに……でも」
思わず笑顔が引き攣る。その理由は、彼が用意してくれたエプロンはピンクカラーで、可愛らしいフリルがついていたからだ。
これ絶対女性用……いや、女の子用ですよ、宗一さん。
彼の真意が掴めない。本気で似合うと思ったのか、はたまた……。
でも俺のことを思って買ってきてくれたのは事実だ。それは本当に嬉しい。
「ありがとうございます、宗一さん! 嬉しいです!」
「ふふ、気に入ってくれて良かった。それじゃあさっそくつけてみて」
パッケージから取り出し、ほぼ強制的に首に掛けられる。着け心地は悪くないけど、何分どピンクだ。
「似合いますか? その、俺には可愛すぎるかも」
「いいや。目眩がしそうなほど可愛い。白希の可愛さが際立つというか……そう、エプロンが白希の良い引き立て役になってる」
よく分からないが、宗一さんは至極真面目な顔で口元を隠した。
「とにかくすごく似合ってるよ。私の目に狂いはなかったようだ」
「さすが宗一さん……! ありがとうございます。でもこれはこれで勿体ないというか……洗ってもとれない汚れがついたら申し訳ないので、なるべく気をつけてご飯作ります」
そう言うと、彼は目を細めて俺の頬にキスしてきた。
「そんなの気にしないで。私が好きでしてることだからね」
「でも……」
「何ヶ月一緒にいても、全然静まらないんだ。……心臓が」
彼の手が後頭部に回る。気付いた時には顔に彼の胸が当たり、抱き締められていた。
「白希といない時は早く会いたくて、一緒にいる時は幸せで落ち着かない。どちらにしてもソワソワするよ」
「宗一さん……」
彼の左胸に顔をうずめる。温かくて心地よい匂い。
世界で一番安心できる場所。
俺も彼と同じだ。でも。
「はは。宗一さんをソワソワさせてしまうのは申し訳ないけど……いつも俺のことを想ってくれてるなんて、すっごく嬉しいです」
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