熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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訝しげな様子の宗一さんに訊かれ、咄嗟に誤魔化してしまった。
雅冬さんもいるし、和やかな空気を壊したくなくて。本当は話した方が良いのかもしれないけど────。

精一杯笑顔を保っていると、やがて宗一さんは顔を綻ばせた。
「そっ、か。何もないなら良かった」
「ええ。大丈夫です。あはは……」
何とか切り抜けたみたいだ。二人で長らく微笑み合っていると、雅冬さんが離れたところから気味悪そうに零した。

「お前達って、いつも惚気けてるくせに時々すごくよそよそしいよな」
「うん? 互いに敬意を払って、適切な距離を保ってるだけだよ。ね、白希?」
「え? あ、はい」

そうなのか。知らなかった。
宗一さんは普段からそんなことを考えてたんだな。密かに感心していると、雅冬さんはいつもの呆れた様子で鞄を取り、立ち上がった。
「あれ。雅冬さん、夕飯食べていきませんか?」
「ありがと。でも今日は予定もあるし、もうお暇するよ」
宗一さんの代わりに玄関まで見送りに行くと、雅冬は笑顔で白希の頭を撫でた。

「そういえば白希、塾はどう? 嫌なこととか、困ってることはないか?」
「全然。塾自体はとても楽しいです」
「塾自体は?」
「いや! 全体的に! 楽しいです!」

危ない危ない。宗一さんも雅冬さんも、意外と細かいところにツッこんでくる。
嫌な汗をひかせようと襟元をパタパタさせてると、彼は可笑しそうに笑った。

「本当、白希は分かりやすいな。まあ悩みがあるわけじゃないならいいや」
「う……」

やっぱり、雅冬さんはお見通しらしい。でもそれ以上は何も言わず、ドアノブに手をかけた。
「あれこれ口を出したくなっちゃうけど、白希の為を思えば自分で解決する力をつけた方が良いもんな。二人目のお兄さんは大人しく見守ることにするよ」
「あはは……ありがとうございます。お気を遣わせてすみません」
彼の優しい気配りは有難くて、同時にいつも尊敬する。
「でも、本当に危ないことがあったら誰にでもいいから言うんだぞ。なにかあってからじゃ遅いからな」
「はい……」
村人の襲撃も踏まえてなのか、雅冬は少しだけ険しい表情で告げた。俺も深く頷き、彼の背中を見送った。

なにかあってからじゃ……本当にその通りだ。
けど、なるべく周りに迷惑をかけたくない。だから自分で何とかしようとする。
自分の力で解決できることなのか、見極めるのは意外に難しい。



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