熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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家に入ると、リビングのソファにスーツ姿の雅冬がいた。すぐにお辞儀し、被っていた帽子をとる。
「お疲れ様です。あれ、宗一さんは?」
「あ~、あいつは今シャワー浴びてるよ」
「え、何故!?」
「はは……取引先で酷い目にあってな。出てきたら聞いてみな」
雅冬さんは半笑いで肩を竦めた。この感じだとそこまで深刻な問題ではなさそうだけど、やっぱり心配だ。
とりあえず彼にお茶を出して、宗一さんが出てくるのを待った。

「は~、お待たせ雅冬。……あれっ、白希もう帰ってたんだね。おかえりなさい」
「はい。宗一さんもお疲れ様です」

やっぱり、宗一さんを見ただけで疲れや不安が吹き飛んでしまう。密かに感謝しつつ、視線を下に下げた。
「でも宗一さん、早くシャツ羽織ってください。雅冬さんもいますから……」
「あぁ、ごめんごめん。なんせ暑くてね」
宗一さんは下にタオルを巻き、上は何も着てなかった。完全に半裸の為、まじまじと見られない。

「ったく、自分の家だからって寛ぎ過ぎだろ。白希、宗一が日曜のオッサン化したら連絡しな。俺が叩き直してやるから」
「まずないと思うけどね。それに白希は世の中のくたびれたおじさん自体想像がつかないと思うよ」

ピュアだからね、とウィンクされる。確かに想像できないけど……そこにピュアとか関係あるんだろうか。

シャツを着た宗一さんが席に座った為、彼にもお茶を入れる。

「宗一さん、雅冬さんから大変なことがあったと聞きましたが……大丈夫ですか?」
「ああ、大したことないから大丈夫だよ。簡単に言うと先方の理想だけ連ねた提案を却下して、どれだけこちらに不利益が出るか説明したらコーヒーぶちまけられたんだ」

コーヒーをぶちまけ……。

ぶちまけてはいないけど、俺もさっき男の人にペットボトルを投げつけた。デジャブで震える。

「そ……れは酷い……。大丈夫でしたか? 火傷してませんか?」
「あはは、アイスだから大丈夫だよ。よけることもできたけど、わざとかけられた。ああなると何をしてもお気に召さないだろうからね」

でもおかげでスーツが汚れた、と宗一さんは拗ねてる顔になった。その様子がちょっと可愛かったけど、悟られないように口端を結ぶ。
「白希、スーツは俺がクリーニングに出したし、問題ないよ」
雅冬さんは足を組み、奥で片手を上げながらお茶を飲んだ。
とりあえず、良かった。この二人だから、俺はこうして安心できるんだろう。

「……宗一さん。本当にお疲れ様です」
「ふふ、ありがと。色んな人がいるから飽きないよ。むしろ七光の私に攻撃してくる人がいるのは有り難い」

そう言うと彼は、悪戯を仕掛けた子どものように笑った。

宗一さんはやっぱり強いな。
小さく笑い返し、彼の手に自分の手のひらを重ねた。

「お互い今日は災難でしたね」
「お互い? 白希もなにかあったのかい?」
「あっ! いえ、俺は何もありませんでした!」




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