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重たくも、暖かく
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しおりを挟む下着を取り替え、ぬれてしまった下着を洗う。洗濯機を回しながら深いため息をついた。
もう二度と外で発情したりしない。したら死刑だ。自分で執行してみせる。
ひとり固く誓い、白希は壁に何度か額を打ち付けた。
「ただいま、白希。何してるの?」
「あっ、宗一さんおかえりなさい。ええと……頭突きの練習です」
心配させてはいけないと思い、咄嗟に嘘をついた。彼は尚も心配そうに、鞄を置いてこちらへやってくる。
「おでこが赤くなってるよ。白希が頭突きしなきゃいけない状況なんて一生やってこないからやめなさい」
「そうかもしれませんね……すみません、やめます」
俺もやってこないと思ってる。でもそうじゃないんだ。頭突きをしていた理由は、最低過ぎる自分を戒める為。
「ふふ、びっくりした。てっきり自傷行為に走ってるのかと思ったよ」
そう、自傷行為に走っていたのだ。さすがに彼は察しがいい。
「驚かせてすみません。……あ、そうだ。宗一さん、今夜は出前をとってまして……大丈夫ですか?」
もちろん代金は自分が持つと言うと、宗一さんはにこやかにネクタイを緩めた。
「お金は気にしなくていいよ。白希も今日は塾だったし、疲れてるだろう?」
「いいえ! 働いてる宗一さんの方がずっと疲れてますよ。本当にごめんなさい。今日だけ……」
外で自慰してしまったことの罪悪感が強過ぎたのだ。時間もそう経ってないから手料理をすることが申し訳なく、かといって買い物で手をつけるのも申し訳なく……悩みに悩んだ末、ノータッチで届けてくれるデリバリーに決めた。
宗一さんには死んでも言えない。隠し通さなきゃ。
所構わず発情する妻と思われたら、飛び降りるしかない。また手を洗っていると、ちょうどインターホンが鳴った。
「私が出るよ」
「あ! 宗一さん、わた……俺が出ますって!」
慌てると一人称も戻りかけるし、全くダメダメだ。最終的に二人で玄関へ向かい、配達員さんを出迎えた。
「へえ、鰻?」
「は、はい」
俺としては奮発したつもりだけど、宗一さんは微笑のまま、うな重の弁当をテーブルに置いた。
彼は食べ慣れてそうだけど。
「もうすぐ土用の丑の日なので……」
それと、精がつくものを食べて元気になってほしかった。前に手を回して微笑むと、彼は納得したように手を叩いた。
「そういえばそうだ。忘れかけてたよ。ありがとう、白希」
「えへへ……さ、頂きましょう!」
吸い物もつけた為、シンプルだけど充分。鰻も美味しくて、ほっぺが落ちそうだった。
「あはは。白希は本当に美味しそうに食べるね」
「あ……宗一さんに喜んでもらいたかったのに」
「もちろん美味しいし、嬉しいよ。白希の笑顔も見られるし、最高の時間だ」
宗一さんはそう言って目を眇めると、吸い物を飲んだ。
「ご馳走様でした。いやあ、元気が出ちゃうな」
「本当ですか? 良かったです!」
「うんうん。元気が出過ぎちゃった」
「え!?」
食べたのも束の間、宗一は立ち上がると白希を抱き抱えた。
「ちょ、宗一さん?」
「疲労回復だけじゃなくて、精力もついたかもしれない。……白希はどう?」
つかつかと廊下を曲がり、宗一さんの部屋のベッドに寝かせられてしまった。突然のことに混乱し、慌てて起き上がる。
「い、いえ、俺は……っ」
「したくない?」
「いえ、そのですね……」
少し悲しげな彼の顔が近付いてくる。はっきりノーと言えず、口篭る。
でも俺は、今日はもうエッチなことはしちゃいけない気がする……!
膝を立たせ、シーツを握り締めた。まだ時間も早いし、シャワーも浴びてない。せめてシャワーに浴びないと。
「白希……」
「……っ!」
彼に提案しようと思ったのに、彼の目を見たら固まってしまった。柔らかそうな唇がどんどん迫り、重なる。
「ん……ふ」
食べたばかりだから、ちょっと美味しそうな匂いがする。変な感じだ。
精がつく食べ物……逆に失敗したかもしれない。
「あ……宗一さん、や……っ!」
ベルトに手がかかり、下着とズボンを引き下げられる。奪い返そうとしたけど、ベッドの下に落とされてしまった。
逃げる間もなく腰をホールドされ、脚を開かされる。
「宗一さん、いや……っ」
「いや?」
「き、たないから……せめて、お風呂入らせてください」
必死に肩を押すも、彼は脚の間に頭を割り込ませてきた。
嗅がれてしまう。
「や……ああっ!」
宗一は躊躇いなく、白希の性器をくわえた。そこからは水音が鳴り響き、容赦ない愛撫が続く。
恐れていたことが起こり、凄まじい絶望感と快感におかしくなりそうだった。
「……今日は匂いが濃いね?」
てらてらと光る唇を舐め取り、宗一は白希の蕩けた顔を見上げた。
「下着の中で篭ってたみたいな、エッチな匂いだ。……もしかして、ひとりでシてた?」
「……っ」
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