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重たくも、暖かく
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しおりを挟む翌日。椅子に座り直した際に腰が痛んだ。
「っつう……」
「水崎さん、どうしました?」
「あ。すみません、何でもないです」
まずい。───声が出てしまっていた。
教室の窓際の席で、白希は汗を浮かべながら俯いた。
昨夜はかなり盛り上がってしまった。
原因が原因なだけにバツが悪く、授業の内容が頭に入ってこない。せっかく課題が無事に終わって、念願の塾に通えているのに。
集中集中……。
ペンを握り締め、重要そうな箇所を丸で囲む。進みは早いが、やりきれば達成感がある。
宗一さんは結果より挑戦することが大事と言ってくれてた。それもすごく有難い。
特別優しい彼だから、俺が辛いと思うことは強要しない。でもそれに甘えて、縋ったら駄目だ。ひとりの大人として、もっともっとしっかりしなくちゃ。
それにしても……昨日の宗一さんは珍しく余裕がなかった。いつもなら前戯が長くて、行為も長いのに、達したらすぐ眠っちゃったし。
仕事が立て込んでいて疲れてるのかもしれない。今夜はスタミナがつきそうなものでも作ろうか。
講師の話を聞きながら、片隅で夫のことを考えている。この時点でどうしようもないが、幸せの海から陸に上がることができない。むしろ溺れかけて、沈みそうだ。
昨日は恥ずかしいことも言ってしまった。お……ちんちんとか。
「……っ!」
頭の中で再生しただけなのに、全身が火照り出した。恥ずかしい記憶は中々消えず、事細かに昨夜の行為を甦らせる。
色素の薄い髪。柔らかい唇に、逞しい胸。くらくらしそうな熱気。
困ったことに、自分の中に入っている感覚も思い出せた。腹を突き破りそうなほど太くて熱い、彼のもの……。
内腿が震える。教室に入った時はやる気に満ちていたのに、今は早くここから出て、トイレに向かいたい。
一分が十分に感じられる。何とか授業を終え、一目散にトイレの個室に駆け込んだ。
「はぁ……っ」
恐る恐るズボンのチャックを下ろす。視線も下げると、下着は案の定膨らんでいた。しかもわずかに変色してしまっている。
有り得ない。でも間違いなく現実だ。……妄想で勃ってしまった。
俺ってこんないやらしい人間だったんだ……。
羞恥心と嫌悪感で、目頭が熱くなった。こんなこと、宗一さんや文樹さんには絶対知られたくない。知られたら死ねる。
最低だけど、これを何とかしないと帰れない。
塾のトイレで自慰するなんて最低だけど、唇を噛んで性器を擦った。なるべく考えないようにしたものの、昨夜のこともチラチラと脳裏によぎった。
宗一に外で勃ったら大変だと話していた矢先、まさか自分がやってしまうなんて。
でも、宗一さんがセクシー過ぎるのも良くない……!
自暴自棄から責任転嫁し、空いた片手でパイプを掴んだ。
脳内再生なんて余裕なほど、彼とは肌を重ねている。胸を触るときの癖や、フェラしてくれる時の仕草も……皆皆瞼に焼きついている。
触ってほしい。今すぐ名前を呼んで、強く抱き締めてほしい。
宗一さん。宗一さん、宗一さん……っ。
「……っ!」
彼の身体を思い浮かべた瞬間、イッてしまった。快感と解放感に仰け反り、壁に背を預ける。
自分の精液で汚れた手を見て、慌てて理性を取り戻した。
早く始末して出なくちゃ……!
快感の後にやってくるのは、凄まじい罪悪感だけだ。慌ててドアを開け、手洗い場で念入りに手を洗った。
本当に申し訳ない。この世の全てに懺悔したい気持ちだ。
白希はハンカチで手を拭き、トイレを出ようとした。しかしそれと同時に水が流れる音が聞こえ、奥の個室のドアが開いた。
え。
一番奥に人がいた……?
瞬く間に血の気が引いていく。思わず立ち止まって振り返ると、ひとりの青年が出てきた。
宗一と同じぐらいだろうか。自分よりは歳が上に見える。状況が状況なだけについ凝視すると、彼は訝しそうにこちらを見た。
「……なにか?」
声を掛けられ、我に返る。急いで首を横に振り、頭を下げた。
「い、いえ! すみません!」
フリーズした自分が悪いのだけど、あまり顔を見られたくない。顔を上げきる前に方向を変え、トイレを飛び出した。
ふええ。大丈夫かな……!?
声こそ出してないが、擦る時の音とか聞こえてたら大変なことになる。外でする変態として知れ渡ったら塾にも通えなくなるし。
初めて見る男の人だったけど、何も気付いてないことを祈ろう。泣きたいのを堪え、何とか家に逃げ帰った。
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