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重たくも、暖かく
#5
しおりを挟む「文樹君が喜んでくれそうだと思えたら、何でも大丈夫だよ」
「喜ぶ……そうですよね。ありがとうございます、宗一さん」
贈ることに必死で、喜んでもらう、という一番大切なことを失念していた。恥ずかしくて項垂れると、不意に手を引かれた。
彼の膝に乗り、抱き着かれる体勢となる。
「もし私だったら、親友が自分のことを考えて選んでくれただけですごく嬉しいよ」
「そっか。じゃあ例えば、雅冬さんがプレゼントしてくれたらすごく嬉しいですか?」
「……………………うん」
ちょっと長考だったけど、やはりそうらしい。内心ガッツポーズをし、頷いた。
「ありがとうございます! 自己満足かもしれないけど、文樹さんに喜んでもらえるよう頑張ります!」
「うんうん。白希は本当良い子だなあ」
ほんわかした笑顔で頷く宗一さんの頬に、短いキスをする。
「それは、宗一さんが優しいから」
「ほう?」
「宗一さんは俺のことを良く言ってくれますけど、実際は全然違いますよ。俺の周りの人が優しいから、俺も優しくなれるんだと思います」
これがきっと、冷たくて意地悪な人ばかりに囲まれたら、自分もそうなってしまうかもしれない。
「宗一さんが俺の心を開いてくださったんです。貴方だから、俺はどこまでも素直でいられる。……ありがとうございます」
眩しい顔に目を細める。
嬉しそうに微笑んだ白希に、宗一はわずかに俯き、口元を押さえた。
「宗一さん、どうされました?」
「いや。……何でこんなに可愛いんだろうなって思って。文樹君も言ってたけど、白希は絶滅危惧種だよ」
よく分からないけど、一応褒められてるみたいだ。でも文樹さん、俺のことを何て言ってたんだ……?
「私が思うに、白希はもともとピュアだよ。代わりに何にでも染まりやすい。見抜くのは難しいかもしれないけど、悪い人についていかないよう気をつけるんだよ」
「あはは、わかりました」
彼の胸に寄り、椅子の上でじゃれあう。やっぱりこれが、世界で一番幸せな時間だ。
「宗一さんは強くて優しくて、かっこいい。宗一さんも絶滅危惧種なんじゃないですか」
「残念ながら、上には上がいるんだな。……でも、君の夫に相応しい人間でいられるよう精進するつもりだよ」
額にキスを落とされる。なんて愛しい温もりだろう。
ずっとこうしていたい。
「白希、何だかこのまま寝ちゃいそうだね」
宗一は苦笑して、白希の頭を優しく撫でた。
「あ……すみません。あまりにも居心地がよくて」
我に返り、慌てて立ち上がった。いつまでも膝に乗っていたら彼が痺れてしまう。
デスクに手をついた時、見覚えのある黒の手帳が目に入った。
「宗一さん、日記帳使ってくださってるんですね」
「もちろん。白希から貰った初めてのプレゼントだし」
そういえば、これもプレゼントだった。何だか感慨深くて、表のカバーにそっと触れる。
これだって自己満足の塊だ。けど彼は喜んでくれた。
送り手と受け手の心が一致するのは本当に嬉しいことだ。そして、有り難い。
「ありがとう、白希」
「いいえ、こちらこそ。すごく嬉しいです」
掌が重なる。また甘くてとけてしまいそうな口付けが交わされた。
幸せだ。目には見えない素敵なプレゼントを、自分は毎日彼から貰っている。
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