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重たくも、暖かく
#4
しおりを挟む「宗一さん。差し支えなければ教えていただきたいんですけど……宗一さんは就職されるとき、どんなプレゼントを貰いました?」
夜、白希は宗一の隣に並んで尋ねた。彼が自分の書斎で本の配置を変えている為、必要な分を代わりに持って手伝う。どれもこれも難しそうな題名ばかりで、自分はきっと前書きを読んだだけで挫折してしまうんだろうな、と密かに考えた。
「プレゼントって、就職祝いのことかな? そうだねぇ……ネクタイや鞄、腕時計。あとはギフトカードや旅行券とか貰ったと思うよ」
「おお……! ありがとうございます。そういえば、お義父さまとお義母さまからは?」
「父からは車。でも半分出世払いでね~……。母は私のスーツを仕立てに連れて行ってくれたり、海外旅行に連れて行ってくれたり。正直、やることはいつもと変わらないかな」
「そうなんですね。すごい……!」
「ふふ。参考になった?」
「あ、ええ。とても」
但し、前半まで。後半は、申し訳ないけど参考にできるレベルじゃなかった。
やっぱり宗一さんの周りの方達は凄すぎる。雅冬さんが時々嘆く理由が、最近は痛いほど分かる。
それはそれとして。社会人として良いものを身につけたいと思う人は多いだろうし、すると物は難しいかなぁ。
大我さんは焼肉はどうだと言っていたけど、本当にそれでいいんだろうか。
白希が眉を下げて考え込んでいると、宗一は残りの本を受け取って微笑んだ。
「無理しなくていいよ、白希。文樹君のことでしょ?」
同時に向き直り、視線が交わる。
宗一さんは整然と立ち、俺の髪にそっと触れた。
「プレゼント選び。高価なものを貰ったら大抵の人は喜ぶだろうけど、多かれ少なかれ、贈る側の自己満足も含まれてると思うんだ。それを見透かされると、ちょっと気まずかったりもする」
「と、言いいますと?」
「これを貰って喜ばない人はいない。……みたいなプレゼントって、贈る相手の性格や、ライフスタイルのことまで考えてないだろう? 本当にその人に合ったものなのか。じっくり考えて選ぶのって、すごく難しいことなんだ」
本を全て仕舞い、宗一は近くのチェアに腰掛けた。
「高過ぎても駄目、安過ぎても駄目。……且つ、その人の役に立つもの。本当に難しいですね」
「ははは、だよね。だから結局無難なものを選んでしまう」
でもそれで良いんじゃないかな、と宗一は肘掛に頬杖をついた。
「本人が欲しいものを直接聞き出せるならそれで良いし。それができないなら、自分が良いと思ったものを選ぶ。とにかく値段じゃない」
彼は瞼を伏せ、高らかに人差し指を上へ向けた。
とても良いことを仰ってるけど、宗一さんがお金の話をすると何か面白い。
普段から高価なプレゼントを貰い飽きてる彼だから言えること。……かもしれないけど、直感を信じろ、ということだろう。
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