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重たくも、暖かく
#3
しおりを挟む一週間後、白希は図書館のカフェに来ていた。
「……で、文樹の就職祝いを俺にも考えてほしいと。気が早くない?」
窓際席に座っている白希に、店員の青年がため息まじりに季節のスイーツを置いた。会うのは一ヶ月ぶりの大我だ。
バイト中の為、今度時間のある時に相談させてほしい、というお願いだけ伝えに来ていた。ただ店内ががらがらのせいか、大我はレジに戻ろうとせず、傍で腕を組んだ。どうやら今話を聴いてくれるようだ。
「仰る通りなんですけど、善は急げと言いますし……大我さんが一番、文樹さんのことをご存知でしょう?」
「まー、否定はしないけど」
「良かった。お二人は特別な関係ですもんね」
「あぁ……はっ!?」
面倒そうに頷く大我だったが、心臓に悪いほどの大声を上げた。しかし次の瞬間には声を潜め、鼻先が当たりそうなほど距離を詰めてきた。
「おいっ、それどういう意味だ……!!」
「え、お付き合いされてるんじゃないんですか? 大我さんって文樹さんのことを話すときだけすごくウットリされるし……文樹さんも同じ反応だから、てっきり恋人同士だと思ったんですけど」
彼のトーンに合わせ、小声で返した。凄まじい気迫に圧されながら返答を待っていると、大我はまた大袈裟に息をついた。
「文樹が話した、とかじゃないんだな?」
「はい」
「……そ。まぁいいけど、お前って変なところで察しが良いよな」
白希は瞬きする。実際、決定打となる出来事があったわけではない。けどこの二人は互いに互いをかばい合ってるようで、それが以前からとても印象的だった。……少なくともただの友人ではない。そう思えるほどには、彼らの強い繋がりを感じていた。
「心配しないでください。絶対、他の人には言いませんから」
「宗一さんにもか?」
「え。あ、はい! 宗一さんにも、死んでも言いません!」
凄まじい殺気を感じた為、姿勢を良くして頷いた。どうあっても、文樹さんと付き合ってることは周囲に知られたくないようだ。
「マジで他言すんなよ。お前、テンパると簡単に口から出そうだからさ」
彼は俺のことを俺より分かっている。しかし今は全力で頷いておいた。
「じゃあ話戻すけど……就職祝いねえ。何が良いんだろな?」
つうか俺もその時就職なんだけど、と大我は伏せ目がちに付け足した。
「もちろん、承知してます。大我さんへのプレゼントは決まってますよ。何でも選べるカタログギフトです」
「お前俺に対してだけ扱い雑じゃね? 絶対以前の人格残ってるだろ」
「とんでもないです! 大我さんには感謝してるし、大好きですよ」
あらぬ誤解をされていると思い、慌てて手を振る。すると大我は複雑そうに顔を逸らし、テーブルに手をついた。
「そういうこと大声で言わなくていいから。……文樹は祝いの言葉をかけるだけで喜ぶと思うよ。内定が出たら、ちょっと高い焼肉屋にでも連れてってやれば? それで充分だろ」
「ははあ……なるほど」
食事に誘うというのは考えになかった。さすが大我さん。
「ありがとうございます。でもそれなら、大我さんも一緒に行きましょう!」
「ん? ん~……いいけど、あんまり俺に会いに来ない方が良いと思うぞ。万が一にも道……じゃない、兄さんに会ったら困るだろ」
意味ありげな視線を送られ、そこでようやく彼の心配事に気付く。
確かに、道源が考えていることは今でもよく分からない。
大我の話だと彼は宗一に好意を持っている為、白希は恋敵と同じだ。必要以上に顔を合わすべきではない。
それは分かるが、白希にとっては大我もまた特別な存在である。
「なるべく気をつけますので……」
これからも時々会って話したいと伝えると、大我はかすかに笑った。
「お前はお前で忙しいんだろ。……でも、飯のことは考えとくよ」
軽く頭を撫でられる。大我はトレイを片手にカウンターへと戻っていった。
やっぱり、文樹さんと同じで芯は優しいひとだ。白希は口を開け、桜色のドーナツを頬張った。
窓の外では薄桃の花弁が待っている。外の世界で、初めての春を迎えていた。
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